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静寂が、時間そのものを噛み砕いていく。外の音が、もう何も聞こえない。
風の音も、人の声も、遠い夢の中の出来事みたいに薄れていく。
遥は、膝を抱えたまま、ゆっくりと顔を上げる。
暗闇の奥に、誰かの気配を感じた。
けれど、次の瞬間にはもう消えている。
幻だとわかっていても、心が勝手に縋りつこうとする。
(……誰か、いるのか……)
声を出したつもりが、空気に吸い込まれて消えた。
――「助けてって言えよ」
突然、耳の奥で笑うような声がした。
でも、それは実際には存在しない。
脳の奥に焼き付いたまま、何度も何度も再生される。
「……言わない」
遥は小さく呟いた。
助けを求めることが、敗北の証のように思えた。
誰かに縋るより、孤独のまま朽ちたほうがマシだと、どこかで思っている。
喉が乾く。
舌を動かすたび、血の味がした。
光はどこにも届かない。
そのかわり、暗闇がじわじわと心を蝕み、輪郭を曖昧にしていく。
――「お前が笑ったせいで、弟がお前を“いい人”だなんて言ったんだよ」
――「だから、俺はお前を直してやった」
結城の声が、どこからともなく響く。
痛みが記憶に戻ってくる。
呼吸が浅くなり、心臓がひとつ打つたびに、胸の奥で何かが崩れていく。
「……俺、直らないよ……」
掠れた声が、闇に滲む。
直してやる、というあの言葉の残酷さが、今になって骨の中で反響していた。
寒さが皮膚に染み、視界の端が滲む。
涙なのか、汗なのかももうわからない。
現実感が薄れていくのに、痛みだけははっきりと残っている。
「……結城……」
その名前を呟いた瞬間、空気が冷たくなった気がした。
まるで彼がこの暗闇のどこかにいるようで、息を止めた。
何もいないはずの空間が、嘲笑で満たされていく錯覚。
それでも遥は、目を閉じた。
壊れてもいいから、何も見たくなかった。
そしてただ、痛みの中で、ゆっくりと呼吸を続けた。