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朝は、カーテン越しの光で始まった。
真白は先に目を覚まし、隣の布団を確認してから、そっと起き上がる。知らない天井でも、昨夜と同じ呼吸が聞こえると安心できた。
「……おはよう」
背後から、少し掠れた声。
「起こした?」
「いや。ちょうどよかった」
アレクシスは起き上がり、窓を少し開ける。冷たい空気が入ってきて、二人とも同時に肩をすくめた。
「寒い」
「冬だから」
「知ってる」
そんなやり取りをしながら支度をする。旅先の朝は慌ただしいはずなのに、なぜかゆっくりだった。
朝食を済ませ、今日は“目的地”へ向かう。
観光地として知られている場所で、地図にもはっきり載っている。珍しく、行き先が決まっている日だった。
バスを降りると、人が少し増えた。売店の声、足音、写真を撮るシャッター音。
真白は一瞬だけ足を止める。
「人、多いね」
「無理そう?」
「……大丈夫。隣にいて」
それはお願いというより、確認だった。
アレクシスは即座に頷く。
「もちろん」
並んで歩く。距離は近すぎず、離れすぎず。
展示物を見て、説明を読んで、時々顔を見合わせる。
「これ、思ってたより大きい」
「写真だとわからないね」
「現物主義だ」
「慎重派とも言う」
真白は小さく笑う。自分でも驚くほど、自然だった。
土産物屋では、色とりどりの品が並んでいた。
アレクシスが一つ手に取る。
「これ、どう?」
「……飾る場所ない」
「即却下か」
「実用性重視」
「じゃあ、これは?」
「……それは、使う」
「じゃあ決まり」
買い物の基準が噛み合っていくのが、少し面白かった。
昼は軽めに済ませる。外のベンチに座り、紙包みを開く。
「外で食べるの、昨日より慣れた」
「成長だ」
「一日で?」
「一日あれば十分」
風が吹き、紙ナプキンが揺れた。
アレクシスが押さえ、真白が「ありがとう」と言う。その一連の流れが、もう“いつものこと”みたいだった。
帰り道、少し遠回りをした。
坂道の途中で、真白が足を止める。
「……きれい」
見下ろす景色は、派手ではない。でも、冬の光が均等に街を包んでいた。
「来てよかった?」
アレクシスが聞く。
「うん。……来てよかった」
即答だった。
宿に戻るころには、体も心も程よく疲れていた。
荷物をまとめながら、真白がぽつりと言う。
「また……来てもいいかも」
「同じ場所?」
「同じでも、違っても」
アレクシスは少し考えてから答える。
「じゃあ、次は真白が行き先決めて」
「……考えとく」
それは“いつか”の話だったけれど、遠すぎる未来ではなかった。
帰りの電車で、真白はうとうとし始める。
アレクシスは何も言わず、肩を少しだけ貸した。
観光地を巡った二日目は、写真に残るほど派手ではない。
でも、二人の中には、確かな手応えだけが残っていた。
行き先があってもなくても、一緒なら、ちゃんと“旅”になるのだと。