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昼前、ふたりは並んで歩いていた。
目的は駅前の文房具店。アレクシスが仕事で使うノートが切れそうで、真白が「ついでに行こう」と言い出した。
空は高く、風は冷たいけれど刺さるほどじゃない。
歩くたび、真白のコートの裾が軽く揺れる。
「紙、そんなに違う?」
「違うよ。書いてるときの集中が変わる」
「ふーん……職人」
真白はそう言って笑った。
からかうような口調だけど、足取りはゆっくりで、自然とアレクシスの歩幅に合っている。
店で用事を済ませて外に出ると、ちょうど角のところに小さなコーヒースタンドが見えた。
ガラス越しに、湯気がふわっと上がっている。
「寄ってく?」
真白が言う。
「時間、大丈夫?」
「大丈夫。今日は締切ない」
店内は狭く、二人で入ると少し距離が近い。
真白は先にカウンターへ行き、メニューを眺める。
「ブラックでいい?」
「うん。真白は?」
「今日はミルク入れる」
注文を待つ間、真白は無意識に指先を揉んでいた。
寒いのか、ただの癖か。
アレクシスはそれに気づいて、自分のマフラーを少し緩める。
「寒い?」
「ん? あー……ちょっと」
言い終わる前に、アレクシスはマフラーを外し、真白の首元にそっと掛けた。
動作は迷いがなくて、でも強引じゃない。
「え」
「すぐそこまでだし。あとで返して」
真白は一瞬黙ってから、軽く息を吐いた。
「……アレク、たまにさらっとやるよね」
「何を?」
「こういうの」
アレクシスは答えず、ちょうど差し出されたカップを受け取る。
湯気と一緒に、コーヒーの香りが広がった。
外に出ると、真白はマフラーを指で整えながら歩き出す。
「似合ってる?」
「うん。色、合ってる」
「そっか」
それだけで、真白は満足そうだった。
歩きながら、ふたりは並んでコーヒーを飲む。
カップが触れないように、ほんの少し距離を保ちながら。
「こういう寄り道、嫌じゃない?」
真白が聞く。
「嫌なら来てないよ」
「……だよね」
真白は前を向いたまま、少しだけ笑った。
特別なことはない。
でも、帰り道に飲むコーヒーは、家で飲むより少しだけ温かかった。