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遥の相談室2

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遥の相談室2

71 - 第71話 才能がないって、いつ分かるんだろう

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2025年12月22日

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相談室のドアは、ノックもなく静かに開いた。

入ってきた相談者は、制服の襟を指でつまんだまま立ち尽くしている。緊張というより、入るタイミングを失った人の動きだった。


「……座っていい?」


遥は頷いた。それ以上は言わない。


椅子に腰を下ろした相談者は、しばらく床を見ていたが、やがて言葉を探すみたいに息を吐いた。


「才能ってさ……いつ、ないって分かるんだろう」


唐突だったが、軽くはなかった。


遥は机の上に置かれたメモ帳を閉じたまま、相手の顔を見ている。


「努力すれば伸びるって言われるけど、周り見てると、そうじゃない人もいるじゃん。最初からできるやつ。教えられてすぐ分かるやつ」


相談者は笑おうとして、やめた。


「別に夢があるわけでもないし、何かになりたいってほどでもない。でも……何もないままっていうのも、なんか怖くて」


言葉の端々が曖昧で、だからこそ現実的だった。


遥は少し間を置いてから、低く言った。


「“才能がない”って、誰かに言われた?」


「……いや。言われてない。だから余計わかんない」


相談者は肩をすくめる。


「褒められもしないし、突き抜けてもない。平均より下ってほどでもない。でも、上を見るときりがなくてさ。

ああ、ここが限界なんだって思う瞬間が、ちょくちょく来る」


遥は視線を外し、窓のほうを見た。

校舎の影が、少しずつ伸びている。


「限界って、決めるのは早いと思う?」


相談者が問いかける。


遥はすぐには答えなかった。


「……早いか遅いかじゃなくて」


選ぶように、言葉を置く。


「“分かりたい”って思ってる時点で、まだ途中だと思う」


「途中?」


「本当に終わった人は、気にしない。才能とか努力とか、考えるのが面倒になる」


相談者はその言葉を反芻するように、黙った。


「じゃあさ」


少し強い声になる。


「途中ってことは、まだ期待してるってこと?」


「たぶん」


遥は短く答えた。


「期待してるのに、応えてない気がするから、苦しいんだろ」


相談者の指が、膝の上でぎゅっと握られる。


「それ、やめたほうが楽?」


「楽にはなる。けど……何かを好きになる前に、自分で切る癖がつく」


遥は視線を戻した。


「それ、あとで結構残る」


相談者は小さく笑った。


「脅すなよ」


「脅してない。ただの実感」


しばらく沈黙が落ちた。


相談者は天井を見上げて言う。


「才能がないって、誰かに言われたほうが楽なのかもな」


「……そうかもな」


遥は否定しなかった。


「でも、言われないまま悩んでるってことは、まだ手放してないってことだ」


相談者は立ち上がる。


来たときより、少し背筋が伸びていた。


「答え、出なかったな」


「出さなくていい」


遥はそう言った。


「“分からないまま続いてる”って感覚、持ってていいと思う」


相談者は一度だけ振り返り、軽く手を挙げた。


ドアが閉まる。


遥は何も書かれていないメモ帳を見下ろし、そっとページをめくった。


才能があるかないか。

それを決めるには、今日という一日だけじゃ、足りない。

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