テラーノベル
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夜、少し遅め。
雨が降るほどでもない、湿った空気。
真白は仕事帰り、駅前のコンビニに入った。
目的は決まっている。
特に買うものがあるわけじゃない。ただ、甘いもの。
冷蔵棚の前で立ち止まる。
プリン。ゼリー。ヨーグルト。
しばらく見て、結局シュークリームを取る。
レジに並ぶと、後ろから声。
「それ、うまい?」
振り返る。
アレクシスだった。
少し濡れている。たぶん外で電話していた帰り。
「……なんでいるの」
「たまたま」
「たまたまにしては近い」
「帰り道」
同じものを取る。
シュークリーム。
真白を見る。
「かぶった」
「別にいい」
会計を済ませて、外に出る。
店の前の屋根の下で袋を開けた。
「今食べるの」
「うん」
「家でいいのに」
「待てない」
真白は袋から出して、一口。
クリームが多い。
満足そうに少し目を細める。
アレクシスも開ける。
同じタイミングで食べる。
「……甘い」
「甘いね」
「でもちょうどいい」
「うん」
少し沈黙。
夜の空気。
車の音が遠くを通る。
真白が言った。
「今日、バグ多くて」
「大変だった?」
「うん。直したら別のとこ壊れて」
「あるある」
「あるあるじゃ困る」
でも、声はそこまで苛立ってない。
ただの報告。
アレクシスはシュークリームを半分食べて、袋に戻した。
「残すの?」
「あとで」
「溶ける」
「急いで帰る」
真白は全部食べ終わる。
袋を丸める。
「帰る?」
「帰ろう」
歩き出す。
並んで。
少しだけ距離が近い。
途中、アレクシスが袋を差し出した。
「一口いる?」
「さっき食べた」
「でもいる?」
「……少し」
小さくちぎって渡す。
真白はそれを食べる。
「同じ味」
「同じだね」
「でも違う」
「何が」
「……外で食べたやつの続き」
アレクシスは少し笑う。
「そうだね」
家までの道。
特別なことは何もない。
でも、コンビニの甘い匂いと、
夜の湿った空気と、
隣にいる気配だけが、
ゆっくり残っていた。
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