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日下部の前で、遥はすべてを言った。

蓮司と、寝たこと。

自分がどんな気持ちでそれをしたのか、どうしてそこまで壊れていたのか。

でも、どんな理由があったところで、日下部を裏切ったという事実が消えることはないと――。


言い終えたあとの沈黙は、まるで、世界が凍りついたようだった。

日下部は何も言わず、遥を見ていた。


その視線が、遥には、痛かった。

耐えられなかった。


「……殴れよ。罵れよ。なんで黙ってんだよ」


遥の声はかすれていた。

泣いているわけじゃない。でも、もう涙も出ないほど、擦り切れていた。


日下部はゆっくりと顔を伏せた。

拳を握っていた。唇も、噛んでいた。

感情を、抑えていた。


「なんで……おれなんか、好きなんだよ」


遥は言った。


「こんな、おまえを裏切るようなことして……最低なのに、きっとまた繰り返すのに……」


「そう思ってるなら、なんで泣いた」


その言葉に、遥の肩が小さく震えた。


「……違う、おれは、泣いたんじゃ……」


否定したかった。でも、言い訳にもならなかった。


「……許さない、とは言わない。でも、忘れたふりもしない」


日下部は目を上げて遥を見た。


「何もなかったことにはしない。でも、おまえが壊れていくのを、見てるだけなのも、もう無理だ」


遥は唇を噛んだ。


「じゃあ……どうすんだよ……どうすれば……」


震える声。

その裏にあるのは、「見捨てられたくない」という、必死な願いだった。


日下部はゆっくり近づいて、遥の前で足を止める。


「ちゃんと怒る。ちゃんと向き合う。逃げずに、一緒に地獄を歩く。それでも……おまえが、おれの隣にいたいって思うなら」


遥の目がにじんだ。


「……ずるい、おまえ……」


それでも目は、初めて――ほんの少し、救いを見ていた。



無名の灯 恋愛編

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