テラーノベル
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講義室の扉が、いつもよりゆっくりと開いた。悠翔は一歩、遅れて入った。既に視線がいくつか、宙に浮いていた。
「……」
教授は何も言わなかった。だが、教卓から顔を上げた瞬間、微かに眉が寄ったのを悠翔は見た。
席に着くまでの数メートルが、やけに長かった。
“音声切り抜き”──誰かが言った。
“いかせて”、ってやつ──誰かが笑った。
スマートフォンの画面を横目で覗き込む者。
無言で肩をすくめる者。
なにも知らないふりをする者の視線が、いちばん重かった。
(まだ……投稿されていないのに)
けれど、「非公開URL」は回っていた。
「身内しか知らない」と言われた場所から、“意図的に漏らされた”のだ。
“ねぇ、ほんとにあいつ、そういう趣味なのかな”
“あれ演技? だとしたら、余計に怖くない?”
“てか、『どこでもいいからいかせて』って……わざとだよね?”
誰も正面から言わない。けれど、知っている目だった。
悠翔の声を“笑いの素材”として再生した耳が、確かにそこにあった。
帰り道、ふと耳元で囁くように、自分の声が再生された。
「いかせて……」
言ってない。言ったけど、あれはそういう意味じゃない。
でも、言葉にはそういう意味しかなかった。
悠翔の中で、それがじわじわと真実に変わり始めていた。
(じゃあ、もし“本当にそう思ってた”としたら……)
──気づかれたくて言ったのか?
──救われたくて、あえてそう言ったのか?
──どこでもいいから、誰でもいいから、自分を終わらせたかったのか?
否定するたびに、首が重くなる。
喉の奥が、何かを呑み込めずにずっと詰まっている。
歩いているだけで、肩が痛い。
イヤホンから流れる音楽が、音楽に聴こえない。
夜。部屋の片隅で、布団も敷かず、ただ床に背中をつけていた。
(違う。違うのに、違うって言えないってことは……)
自分が、自分を信じていない証拠だった。
暴力より、言葉より、その沈黙のほうが残酷だった。
「……気持ち悪いのは、俺の声なんだろ」
「全部、わざとなんだろ」
「何されても、反応するから……面白がられるんだよな」
気づけば、手の甲を噛んでいた。歯形が、皮膚に浮かんでいる。
それでも、痛くない。
コメント
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お疲れさまです、第66話読ませていただきました……。 講義室に入る“数メートルがやけに長かった”一文から、もう苦しかったです。誰も正面から言わないけど“知っている目”の描写が、噂の重みをまざまざと伝えてきて、読んでいて胸が締めつけられました。特に「否定するたびに首が重くなる」って比喩、本当に深くて……悠翔の孤独がひたひたと伝わってきました。このお話、続きが気になります🌷
しずまる@Sくんに卒業式告白!
のまめ
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