周囲の笑い声が途切れず、俺は机に顔を押し付けたまま、背中のやけどや腕の痛みを必死で押さえる。だが、数人が机を囲み、軽く押しのけるようにして立ちはだかった。
「さあ、座ったままでいるのも飽きたな」
「立って、前に出ろよ」
強制され、俺は重い足を引きずりながら教室の中央に立った。爪の痺れが痛みに変わり、やけどの跡が火のように疼く。
「お前、さっきの言葉をちゃんと言ってみろ」
「何を? 『生きてる意味ない』とか?」
「あー、そっちでもいいな。どうせ全部本音だろ?」
俺は言葉に詰まった。口を開けば、弱音や本音しか出てこない。
「……俺……もう……だめ……」
それだけで、後ろの数人が笑い出す。
「ほらほら、もうちょっと大きな声で言えよ。みんな聞きたいって」
「……生きてる意味……ない……」
小さく呟く俺に、一人が近づき、肩を軽く叩いた。
「おい、背中のやけど見せろ」
無理やりシャツをまくり上げられると、赤く腫れた跡が目に入る。
「うわ、すげえ……痛そう」
「写真撮ろうぜ」
「や、やめ……お願い……」
俺の声は懇願に近いが、笑い声でかき消される。
さらに一人が髪を掴み、軽く引っ張る。焦げた匂いが鼻を突く。
「髪も燃えたまんまじゃん。匂いすんぞ」
「……いた……い……」
俺の声は震え、体全体が小刻みに震える。
「じゃあ次は机に手をつけろ。爪の痺れ、まだ見せてやれ」
指先を机に押し付けられ、痺れと痛みが交互に走る。
「……あ……ああ……」
呻く声も、笑いの種になるだけだった。
「うわ、泣きそうじゃん。もっと聞かせて」
「もう……やめ……もう……限界……」
涙が溢れ、嗚咽混じりに声が漏れる。懇願する気持ちすら、誰も尊重しない。
一人が近づき、軽く額を叩く。
「泣いてもいいんだぞ、もっと本音出せ」
「……俺……なんで……こんな……」
言葉が続かず、声が途切れる。
「もっと屈辱味わえよ」
背後から腕を掴まれ、無理やり前に押し出される。
「立ってるだけで痛いんだろ? その顔見せてくれ」
「……ああ……もう……いや……いや……」
言葉も体も、痛みで制御できなくなる。
教室の空気は完全に俺を包み込み、逃げ場はなかった。
笑い声、指の痛み、背中のやけど、焦げた髪の匂い――すべてが一度に押し寄せる。
机の上で握る拳は、痺れと痛みで震え、涙と鼻水が混ざった顔を拭くこともできない。
「……もう、消えたい……」
声が震え、涙が止まらない。
それでも、周囲の笑いは止まらず、俺をさらに追い込んでいく。
体も心も限界に近づき、ただ机の上で縮こまるしかなかった。
弱音も懇願も、誰にも届かず、孤独と羞恥だけが教室を支配していた。
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