放課後、生徒の笑い声が遠くなる廊下を、俺は押し流されるようにしてトイレに連れて行かれた。扉が重く閉まる音。鍵はかかっていない。囲む数人の顔が影のように迫る。
「ここなら誰も見てないな」
一人が言い、ニヤリと笑う。
「さっきの爪も背中も髪も、まだ痛むんだろ?」
「……や、やめ……っ……」
俺は机の上とは違う、薄暗く狭い空間に押し込まれ、息を詰める。
「小さくても声出すなよ」
手で口を押さえられた。痛みと羞恥が一度に襲う。
「ほら、モップ持ってこい」
誰かが指示すると、もう一人が水に濡らしたモップを取り出す。
「今度は身体全部だ」
モップで肩や背中を擦り付けられ、湿った冷たさと痛みが肌に走る。
「……や、やめ……っっ、もう……」
小さな声が、喉の奥からこぼれる。懇願ではなく、ただ痛みから逃げたいだけの声だ。
「シャンプーってことで、頭も洗おうか」
冷たい液体が髪にかけられる。燃えた匂いと混ざり、頭皮が痛い。
「顔もこっちに向けろ」
無理やり顔を便器の縁に近づけられる。息が詰まり、心臓が早鐘のように打つ。
「ほら、舐めろ」
一人が冗談のように言い、指示に従わなければもっと痛い目に遭うのだと暗示される。
「……や、いや……無理……」
弱音が自然に口から漏れる。体は震え、目から涙がこぼれる。
「泣いてるのか? でも見せ方が足りないな」
髪を掴み、少し引っ張る。焦げた匂いと痛みが再び鼻を突く。
「……もう……耐えられない……本当に……いや……」
声は懇願に近いが、完全に屈服してはいない。痛みと羞恥に押され、ただ本音が零れるだけだ。
「動いたら、もっと酷いことになるぞ」
「わかってる……でも……もう……いや……」
身体を押さえつけられ、モップで再び背中を擦られる。
水と冷たさがやけど跡に染み、痛みが鋭くなる。
「うわ、髪もべちゃべちゃだし、もうぐちゃぐちゃじゃん」
「はい、便器に頭押し付けー」
叫ぶこともできず、口元が便器に触れそうになる。羞恥と痛みで意識がぐらつく。
……もう……死にたい……でも……怖い……。
言葉が自然に出る。泣きそうな声、嗚咽まじり、懇願までは届かないが、弱音のバリエーションは多い。
囲む人数の笑い声、指先やモップの冷たさ、焦げた髪の匂い、便器の圧迫感――すべてが閉鎖空間で密度を増し、逃げ場はゼロだ。
俺は縮こまり、ただ耐えるしかない。







