テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ruruha
362
ruruha
272
ruruha
558
放課後。
空き教室。
日下部は制服のまま椅子に座っていた。
机の上には開きっぱなしの古典のノート。
やる気はどこかに置いてきた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「……お疲れ様です」
生徒が入ってくる。
「今日、委員会?」
「いや」
日下部は古典のノートを閉じる。
「課題終わってないだけ」
「真面目ですね」
「追い込まれてるだけ」
少し笑って、生徒は座った。
日下部はノートを閉じる。
「で?」
生徒は少し迷う。
「二人だと話せるんです」
「うん」
「でも三人とか四人になると」
少し間。
「急に話せなくなるんです」
日下部は黙って聞く。
「一対一なら普通なんですよ。話題も出るし、沈黙もそんな気にならないし」
視線が落ちる。
「でも人数増えるとタイミング分かんなくなって、入ろうと思ったら他の人が話し始めて」
少し苦笑する。
「気付いたらずっと聞いてるだけです」
「で」
日下部が言う。
「帰ってから落ち込む」
生徒は止まる。
「……はい」
「『また何も喋れなかった』」
「はい」
「『つまらないやつって思われたかな』」
「はい」
「『もっと頑張ればよかった』」
「全部です」
生徒は笑う。
日下部も少し笑った。
「よくある」
短く言う。
「でも他の人って普通に入っていけるじゃないですか」
「そう見えるだけだろ」
生徒は顔を上げる。
「え」
「四人組って全員が均等に喋ってるか?」
少し間。
生徒は考える。
「……いや」
「二人が喋ってて、一人笑ってて、一人静か」
「結構あります」
「ある」
日下部は頷く。
「グループって常に全力参加する場所じゃない」
短く言う。
「聞いてる時間も普通にある」
生徒は黙る。
「でも、自分だけ喋ってない気がして」
「自分のことしか見えてないからな」
生徒は止まる。
「他人の沈黙は気にならない。でも自分の沈黙だけは」
少し間。
「やたら長く感じる」
生徒は苦笑する。
「めちゃくちゃあります」
窓の外から運動部の掛け声が聞こえる。
「あと」
日下部は言う。
「グループ苦手なやつって喋ることを仕事にしすぎ」
「仕事?」
「何か言わなきゃ、盛り上げなきゃ、気まずくしちゃダメ」
短く言う。
「背負いすぎ」
生徒は黙る。
「俺、毎回面接みたいになってました」
「友達だろ」
即答。
生徒は吹き出した。
「確かに」
「採用試験じゃない」
少し空気が軽くなる。
生徒は立ち上がる。
「なんか、グループって得意な人だけの場所だと思ってました」
「静かなやつも普通に混ざってる」
日下部は言う。
「案外な」
ドアが閉まる。
大人数の会話が苦手なのは、話す力がないからじゃない。
「ちゃんと参加しなきゃ」と思いすぎて、自分だけ勝手に試験を始めていることもある。
コメント
1件
ああ、これすごくわかります……。グループになると急に喋れなくなる感覚、めちゃくちゃ共感しました。「自分の沈黙だけやたら長く感じる」ってまさにそれですよね。日下部先生の「グループって全力参加する場所じゃない」「喋ることを仕事にしすぎ」って言葉に、すごく救われる気持ちになりました。静かな人も普通に混ざってるって、そう思えたら少し楽になれそうです。優しいお話をありがとうございます🌷