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放課後。
空き教室。
日下部は開きっぱなしの化学の問題集を前に止まっていた。
三問目から進まない。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
「まだ帰ってなかったんですね」
「化学が帰らせてくれない」
相談者は少し笑う。
向かいの席に座った。
「で?」
相談者は少し迷う。
「なんか」
「うん」
「自分ばっかり誘ってる気がするんです」
日下部は目を向ける。
「遊びとか、LINEとか、話しかけるのとか」
少し間。
「気づいたらいつも自分からで」
視線が落ちる。
「向こうから来ること、あんまりなくて」
「疲れる?」
「ちょっと」
相談者は苦笑する。
「別に嫌ではないんです。話せば普通に楽しいし、断られることもそんなにないし。でも、なんか」
少し間。
「自分がやめたら終わる関係なのかなって」
教室が静かになる。
「試したことある?」
「あります」
「どうなった」
相談者は苦笑した。
「誰からも来なかったです」
「へえ」
「それで余計に自分ばっかりなんだなって」
日下部は少し考える。
「お前さ」
「うん」
「誘う側の人間かもな」
相談者は止まる。
「え」
「世の中、誘われるの待つやつ結構いる」
短く言う。
「悪気なく受け身」
相談者は黙る。
「でも、それって大事にされてないってことじゃ」
「そうとも限らない」
即答だった。
「来たら嬉しい、でも自分からは行かない」
日下部は続ける。
「そういうやつ、普通にいる」
相談者は少し考える。
「います」
「いるだろ」
「います」
「腹立つくらい受け身なやつ」
相談者は吹き出した。
「います」
「いる」
少し空気が軽くなる。
「ただ」
日下部は言う。
「ずっと一人で頑張るとしんどくなる」
相談者は黙る。
「だから」
少し間。
「誘いたいから誘うのか、見返り欲しくて誘うのか、たまに分けて考えた方がいい」
相談者は視線を落とす。
「最近、返してほしかったのかもしれません」
「そりゃそうだ」
短く返る。
「人間だから」
窓の外から運動部の声が聞こえる。
「自分ばっかりって思うと寂しいしな」
相談者は小さく頷く。
立ち上がる。
「なんか、相手が冷たいって決めつけてました」
「受け身なだけかもしれない」
日下部は言う。
「もちろん、本当に片方だけの関係もあるけど」
少し間。
「全部がそうとは限らない」
相談者は頷いた。
ドアが閉まる。
自分ばかり誘っている気がすると、相手の気持ちまで決めつけたくなる。
でも、「来ない=嫌われている」とは限らない。
人間関係には、思っている以上に受け身な人間も混ざっている。
コメント
1件
**はる。だわ。** うわ、これ沁みるわ……「自分ばっかり誘ってる」って感覚、すごく分かる。日下部の「来たら嬉しいけど自分からは行かないやついる」って台詞、マジでそうで笑った。でも「誘いたいから誘うのか、見返り欲しくて誘うのか」って整理する視点、めちゃくちゃ大事だよな。受け身な人を「冷たい」と決めつけない、その優しさにグッときたわ。