テラーノベル
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朝と昼の境目みたいな時間だった。
カーテン越しの光はもう冬の白さを失っていて、部屋の中だけがやけに静かだった。
キッチンから、コーヒーを挽く音がする。
規則的で、少し不器用で、でも落ち着く音。
「起きてる?」
声だけでわかる。
わざわざ振り向かなくても、顔を見なくても、今の声は“急かさない声”だ。
「……起きてる」
そう返すと、少し間があって、
「じゃあ、まだ布団にいな」
と言われる。
理由は言わない。
寒いから、とか、休みだから、とか、そういう説明を一切しないところが、逆に優しい。
マグを二つ持ってきて、片方をそっと置く。
「今日は何もしない日ね」
言い切りじゃなく、確認みたいな言い方。
「うん。何もしない」
そう答えると、満足そうに小さく頷いた。
テレビもつけない。
外の音も入ってこない。
年末年始の賑やかさが、もう全部終わったみたいな空気。
ソファに並んで座ると、自然に肩が触れる。
避けもしないし、寄せもしない。
ただ、そのまま。
「正月っぽいこと、した?」
「……餅食べた」
「それは正解」
笑う声が近い。
笑われた、じゃなくて、一緒に笑ってる距離。
コーヒーを飲みながら、特に意味のない話をする。
夢の話とか、昨日見た変なCMとか、どうでもいいことばかり。
でも、どうでもよくないのは、
その間ずっと、安心して黙れることだった。
「ね」
「なに」
「今年も、こんな感じでいこ」
大きな約束じゃない。
未来の話でもない。
今日の延長線を、そのまま差し出しただけ。
「……うん」
そう答えると、肩に軽く頭が乗ってきた。
重くない。
でも、離れない。
何も起きない一日。
だからこそ、ちゃんと記憶に残る、静かな正月の続き。
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