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放課後の空は、夕焼けに染まった薄い橙から群青へと、ゆっくりと色を変えつつあった。

隼人は校舎裏の自転車置き場に向かって歩いていた。呼び出したのは自分ではない。メッセージを送ってきたのは柊だった。


――「ちょっと話がある。体育館裏、来い」


胸の奥がざわつく。


(……なんなんだ? まだ何か仕掛けてくる気か?)


体育館裏は、部活帰りの声も届かない静かな場所だった。

柊はフェンスに背を預け、淡い光の中に立っていた。風が髪を揺らしている。


「よ、隼人。来たな」


軽い口調のわりに、どこか真剣な空気をまとっている。


「何だよ、こんなところで」


「話したいことがあるんだ」


柊はポケットに手を突っ込んだまま、しばし黙った。

沈黙を破ったのは、意外な一言だった。


「お前さ……大地の誕生日、俺が邪魔してると思ってんだろ?」


隼人の心臓が一瞬止まったような気がした。


「な、何のことだよ……」


「嘘つけ。顔に書いてある」


柊は苦笑し、フェンスから身を起こした。


「隼人、お前、動かなさすぎ」


「……は?」


「見てて焦れったいんだよ。大地に、ちゃんと気持ち伝えたいくせに、いつまでもモヤモヤしてさ」


その言葉に、隼人は思わず目を見開いた。


「お前……何言って……」


「大地への“特別”な感じ。バレバレだよ」


柊はいたずらっぽく笑うが、その瞳は真剣だった。


隼人は言葉を失った。

自分の中の感情を、誰にも知られないと思っていたのに。

心臓が早鐘を打つ。


「だからさ」


柊は続ける。


「俺が大地を誘った。わざとだ」


「――え?」


「お前を焦らせたくて。

俺が大地を連れ回したら、お前が少しは本気になるかなって」


風が、二人の間をさらりと抜けた。

隼人はただ立ち尽くす。


「なんで……そんなこと……」


「簡単だよ。見てらんなかったから。

大地だって、お前が特別だってうすうす気づいてる。でも、お前が動かなきゃ何も始まらない」


柊は小さく息を吐いた。


「大地は鈍感だし、隼人は臆病。

だから、俺がちょっと背中押してやろうと思っただけ。

別に、大地を奪う気なんてさらさらない」


その言葉に、隼人の胸の奥で何かが崩れた。

嫉妬に揺れた心、焦り、迷い――全部が一瞬で混ざり合って、溶けていくようだった。


「……お前、ほんと、余計なことを……」


声が震えた。


「余計かもな。でもさ」


柊は真っ直ぐ隼人を見る。


「好きなんだろ、大地のこと」


真正面から問われ、隼人は息をのむ。

逃げ場はない。

ゆっくりと、言葉が零れた。


「……好き、だ。たぶん、ずっと前から」


自分の声が思ったよりもはっきりと響いた。

胸の奥で、何かがほどけていく。


柊はふっと笑った。


「やっと言ったな。

じゃ、もう迷うなよ。明日、大地にちゃんと伝えろ」


隼人はしばらく黙ったまま、夜風を吸い込んだ。

息が、いつもより深く肺に満ちる気がした。


「……ありがとな、柊」


「礼はいらない。俺はただ、面白い方が好きなだけ」


そう言って、柊は肩をすくめる。


校舎の向こうで、街の灯りがぽつぽつと瞬き始めていた。

隼人はその光を見つめながら、静かに決意を固める。


(――明日。必ず大地に伝える)


柊が軽く背中を叩いた。


「じゃ、明日よろしく。サプライズ、楽しみにしてる」


「ああ」


隼人は小さく笑った。

胸の奥の迷いが、今はもうどこにもない。



いじめのはずがプロポーズでした

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