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放課後の相談室は、いつもどおり静かだった。
ノックの音はやけに控えめで、蓮司は机の上のペンを転がしながら「どうぞ」とだけ言った。
入ってきたのは、制服の肩が少し落ちている男子生徒。
座る前から、疲れた空気がまとわりついている。
「……その、休んでいいって言われても……どうしていいのかわかんなくて」
絞るような声。
蓮司は足を組み替え、何の感情も乗せずに問い返す。
「で? 休む気はあるの?」
生徒は一瞬、息をのみ、うつむいた。
「……たぶん、ある。でも……怖い。休んだら、戻れなくなりそうで」
「戻れないほど頑張ってたって話?」
蓮司の声はやわらかでも優しくもない。
ただ、淡々と事実をなぞるだけだ。
生徒は指を握りしめ、震える声で続ける。
「最近ずっと、頭がぐちゃぐちゃで……。
“休み方”を忘れたっていうか、止まり方がわかんなくて。
止まったら自分が壊れそうで……」
「壊れてんのに走ってるほうが危ないけどね」
蓮司はため息もつかず、まっすぐ言った。
「“休んでいいよ”って言葉で困るのは、
本当はずっと前から休めなかった証拠だよ。
止まれないんじゃなくて──止まらせてもらえなかっただけ」
生徒は顔を上げる。
蓮司の瞳は温度が低いのに、不思議と逃げ場がない。
「休み方がわかんないんじゃなくてさ。
“休んでいい自分”を許せてないだけだよ」
その言葉に、生徒の肩がわずかに震えた。
蓮司は椅子の背に体を預け、飄々とした調子で言い足す。
「ほら、ここ来れたじゃん。
休み方がわかんない奴ってさ、相談室のドア開けるのも無理だから。
──たぶん、もう止まっていい段階に来てるよ」
生徒はようやく息を吐き、張りつめていた指の力を抜いた。
その音まで聞こえそうな静けさの中で、蓮司はひとこと。
「疲れてんの、隠すのやめなよ。バレバレだから」