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放課後。
空き教室。
日下部は机に置いたペンを回しながら、窓の外をぼんやり見ていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
いつもより少しだけ、表情が曇っている。
「今日は?」
相談者は椅子に座る。
少し間を置いてから口を開く。
「友達と一緒にいるのに」
日下部はペンを止める。
「うん」
「なんか、孤独なんです」
教室が少し静かになる。
「二人とか三人でいても。普通に話してるのに」
視線が落ちる。
「自分だけ浮いてる感じがして。会話にはいるんだけど混ざりきってないというか」
短く息を吐く。
「帰ったあと、どっと疲れるんです」
日下部は少し考える。
「その時、喋ってるのは本当に友達?」
相談者は少し驚く。
「え。いや、友達なんですけど」
「じゃなくて」
日下部は続ける。
「その場で“友達っぽく振る舞ってる関係”じゃなくて?」
相談者は黙る。
少し考える。
「……分かんないです」
日下部は頷く。
「それ、結構ある」
短く言う。
「一緒にいる=安心できる相手、とは限らない」
相談者は視線を上げる。
「でも普通に笑ってるんです」
「笑えることと、安心できることは別」
日下部は言う。
「盛り上がる関係って、意外と“演技”の部分もある」
相談者は黙る。
「ちゃんと会話は成立してる。でも、素のままじゃいられない」
少し間。
「そういう相手といると孤独になることがある」
相談者は小さくうなずく。
「なんか、すごくしっくりきます」
日下部は少し視線を外す。
「あともう一個ある」
「はい」
「自分だけ“本音側”にいる時もある」
相談者は首を傾げる。
「本音側?」
「みんなはその場を楽しむことを優先してるのに自分だけ“ちゃんと繋がりたい”って思ってる」
短く言う。
「そのズレで孤独になる」
相談者は黙る。
「自分だけ真面目すぎるんですかね」
「真面目というより」
日下部は言う。
「期待の置き場所が違う」
相談者は少し考える。
「期待?」
「ちゃんと分かり合えるはず、って思ってるか、今この空気を楽しめればいい、って思ってるか」
少し間。
「その違い」
相談者は小さく笑う。
「自分、前者かもしれないです」
日下部は頷く。
「それだと“今楽しい”があっても、どこか足りなく感じる」
教室が静かになる。
相談者は立ち上がる。
「一緒にいても孤独って、変な感じだと思ってました」
「変じゃない」
短く返る。
「むしろ普通にある」
相談者は少し安心したように笑う。
ドアが閉まる。
人と一緒にいるのに孤独を感じるのは、その場に“いる”ことと、その場に“繋がっている”ことが違うからかもしれない。
コメント
1件
このエピソード、すごく共感しました。「一緒にいる=安心できる相手、とは限らない」って台詞、核心を突いてますよね。笑えてるけど混ざりきれてない感覚、すごくリアル。日下部の「期待の置き場所が違う」という分析も、人間関係の構造を的確に言語化していて、読んでいてスッと腑に落ちました。孤独の正体を優しく紐解くような、知的な温かさのある話でした。