放課後の教室。
窓際の席に残ったまま、日下部は、机に額を押しつけていた。
──静かだ。
けれど、静けさの中に、あの軽い声の残響がある。
「お前は優しいんじゃなくて、鈍いんだよ」
蓮司の言葉。
冗談めかして笑っていたはずなのに、なぜか耳の奥で抜けない。
あれは、嘲りだったのか、それとも……。
ふと、胸の奥がざらりとする。
“あのとき自分も笑っていた”記憶が、指の間から落ちていくように痛い。
──もし、あれが間違いじゃなかったとしたら?
もし、あの笑いが「仕方なかったこと」だと言われたら?
その思考が浮かんだ瞬間、心のどこかが救われそうになった。
けれど、その安堵の正体が「逃げ」だと気づいたとき、息が詰まる。
蓮司の言葉は、正しさの形をして近づいてくる。
「誰も悪くない」と言うように。
「こうなるしかなかった」と、優しく包むように。
そして、日下部は気づく。
──それが、いちばん恐ろしいやり方だと。
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