テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は椅子に座りながら言った。
「昔好きだったものが、全然楽しくなくなった……」
蓮司は椅子にもたれる。
「何が」
「ゲームとか。漫画とか。動画とか」
「飽きた?」
相談者は少し考える。
「それとも違う気がする」
「どう違う」
「やれば面白い時もある。でも始めるまでが重い」
蓮司は軽く頷く。
「いつから」
「気づいたら」
少し間。
「それで焦ってる?」
「ちょっと」
相談者は視線を落とした。
「好きだったものなのに」
「戻らない感じするか」
「する」
蓮司は机に指を置く。
「お前、その頃と今で同じ人間だと思ってるな」
相談者は眉を寄せた。
「違うのか」
「違う」
間。
「中学の頃に好きだったものと、高校の頃に好きなものが変わるのは普通」
「でも捨てたくない」
「思い出あるからな」
相談者は黙る。
少し沈黙。
「お前さ」
「何」
「楽しくないことより、楽しくなくなった自分を気にしてないか」
相談者は一瞬止まった。
「……あ」
「そっちの方が近そうだな」
間。
「昔はもっと夢中だった」
「うん」
「何時間でもできた」
「うん」
「でも今は違う」
相談者は黙る。
「だから“自分が変わった証拠”みたいで嫌なんだろ」
少し静かになる。
「なんか、つまらない人間になった気がする」
蓮司は首を横に振った。
「違うな」
「じゃあ何」
「更新されてないだけ」
相談者は顔を上げる。
「更新?」
「好きだったものが減ったのに、新しく好きなものがまだ見つかってない」
間。
「だから空白に見える」
相談者は黙る。
「でも何もない」
「本当に何もないか?」
少し沈黙。
「気になるものはある」
「あるじゃん」
「でも好きってほどじゃない」
「最初から好きだったものなんて少ない」
相談者は考え込む。
間。
「なんかさ」
「何」
「前は好きなもの聞かれたら答えられた」
「今は?」
「分からない」
蓮司は少し笑った。
「年齢的に普通だな」
相談者は眉を寄せる。
「そうなのか」
「好きなものより、好きだったものの方が多い時期ある」
少し沈黙。
「みんなそう?」
「結構」
間。
「でも周りは何か楽しそう」
「見えてるだけだ」
相談者は黙る。
「新しい趣味見つけてるやつもいれば、何となく続けてるやつもいる」
「なるほど」
「お前だけ止まってるわけじゃない」
少し静かになる。
「じゃあ無理に戻らなくていい?」
「いい」
「好きだったゲームとか」
「思い出は思い出だ」
間。
「今の自分に合わなくなっただけか」
「その可能性は高い」
相談者は小さく息を吐いた。
ドアの前で立ち止まる。
「昔好きだったものに、ずっとしがみついてたかも」
「それも自然だ」
ドアが閉まる。
好きだったものが楽しくなくなるのは、何かを失った証拠とは限らない。
ただ、次の興味に移る途中なのかもしれない。
コメント
1件
うわ、この回すごく刺さりました…… 「好きだったものが楽しくなくなった」って、自分が変わった証拠みたいで怖い気持ち、すごくわかります。特に「更新されてないだけ」って蓮司の言葉、胸にグッときました。新しい何かに出会う前の空白期間なんだって思えたら、ちょっと楽になれるのかも。 なんか、私も今まさにそんな感じかもって思いました。好きなものより好きだったものの方が多い時期って言葉、本当にその通りで泣けます……😢 でも無理に戻らなくていいって言ってもらえて、救われました。ありがとうございます、ruruhaさん。