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夜。誰もいない部屋。
遥は無言のまま上着を脱ぎ、乱暴にベッドに体を投げ出した。
 天井を見上げる。冷たい白。
 (……バカだ)
 目を閉じても、日下部の言葉だけが残っていた。
 「壊れてるとか、そういうの、もう言うなよ」
 
 
 まっすぐすぎて、うざい。
でも、耳から離れない。
体のどこかに、小さく火傷を残すみたいに、言葉が残っていた。
 遥は自分の指先を見た。
 日下部の制服を掴んだ、自分の手。
その手で、何人もの知らない男の腕に引かれてきた。
そのたびに、「何も感じないふり」を重ねてきた。
 触られて、使われて、壊れたと信じ込んで。
 (……ほんとに、“壊れてる”んじゃなかったら、どうすんだよ)
 なぜか、そこだけが痛かった。
 
 次の日の朝。教室。
 日下部は教室に入るなり、遥の姿を探した。
奥の席に、いつも通り机に突っ伏している遥がいた。
 でも、昨日と違ったのは──遥が、目を開けてこちらを見ていたことだ。
 無表情。でも、どこか探るような目。
 「……よ」
 日下部が声をかけると、遥はわずかに目を細めた。
 「……おまえ、さ」
 その声は、教室のざわめきに紛れるほど小さかった。
 「オレのこと、“そういうふう”に見てんの?」
 「……それは、おれが決める」
 そう答えた日下部に、遥は少しだけ口の端を上げた。
 「……はは。そっか。じゃあ、また試していい?」
 「おまえが試すなら、こっちは、毎回ちゃんと答える」
 その言葉に、遥の顔が一瞬止まった。
 ふいに、何かが揺れたような、ひどく静かな反応。
 「──バカ」
 遥はそう呟くと、また机に顔を伏せた。
でも、指先だけが、机の下で日下部の裾に、そっと触れていた。