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十分後、夏帆は髪とメイクを軽く整え、バッグを手にマンションのロビーへ戻った。
すると、透也がすでに待っていた。
ボトムは夏帆と同じジーンズ。
仕立ての良い黒のシャツが体にぴたりと馴染み、カジュアルなのにどこか色気が漂う。
イケメンは何を着ても似合うとは思っていたが、目の前の彼を見るとその言葉の意味を痛感する。
(これまで何人の女性を泣かせてきたのかしら……)
夏帆は、そんなことを心の中でつぶやいた。
「じゃあ、行こうか」
「はい……」
透也のあとをついていくと、彼は道路ではなくマンション裏の駐車場へ向かって歩き出した。
「えっ? 車で行くんですか? てっきり近くの店かと……」
「せっかくだし、少しドライブしようよ。美味しいものも食べたいしね~」
「……」
いきなり“ドライブ”と言われ、夏帆は思わず足を止める。
普通、知り合ったばかりの隣人とドライブして食事に行くだろうか。
しかも彼はホスト。素人の自分が勝負できる相手ではない。
(まさか、私を堕として客にでもしようとしてるんじゃないでしょうね)
戸惑っていると、透也が立ち止まった。
そこには、真っ白なドイツ車のカブリオレが停まっていた。
(まさかのオープンカー? すご……。こんなの乗ったことない……)
感心していると、透也が助手席のドアを開けてくれた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
夏帆が乗り込むと、透也は運転席に乗り込みエンジンをかけた。
そして、車は静かに走り出す。
車内を珍しそうに見回す夏帆に、透也が楽しげに声をかける。
「オープンカー、初めて?」
「はい……」
「じゃあ、ルーフを開けてみようか」
「え? いいんですか?」
「うん。もうだいぶ涼しいし、虫もいなくなったからね」
透也がルーフを開けると、乾いた夜風がふわりと夏帆の頬を撫でた。
「わあ、気持ちいい」
「だろ? 今の季節は最高だよね」
「開放的でいいですね」
「うん。この車で星空の綺麗なところへ行けば、天然のプラネタリウムみたいになるんだ~」
「プラネタリウム? 天然の?」
夏帆はうっとりと夜空を見上げた。
東京ではほとんど見えない星も、場所を変えればきっと感動的だろう。
その光景を想像すると、自然と口元がほころぶ。
その横顔をちらりと見た透也は、軽快にハンドルを切った。
車は海沿いの湾岸エリアへ向かって進んでいく。
「わぁ~、素敵……!」
アンティーク煉瓦の外観が美しい店に到着すると、夏帆は思わず声を上げた。
透也が連れてきてくれたのは、海を臨む洒落たレストランだった。
カジュアルながら品のある店内では、上質な雰囲気の客たちが談笑しながら料理を楽しんでいる。
ビストロ料理で名高い店のようで、ふわりと漂う香りが食欲をそそった。
「ここはビーフシチューが絶品なんだ」
「美味しそう……いい匂いがしますね」
「でしょ。じゃあ、ビーフシチューのコースでいいかな?」
「はい」
返事をしながら、値段の高さが頭をよぎる。
(ぜったい高いよね。割り勘だとしても、ひとり一万近くはしそう。無職の身には痛いなぁ……)
それでも、せっかくの素敵な店に来たのだから、夏帆は美味しい料理を楽しもうと決めた。
注文を終えると、夏帆はさっそく尋ねた。
「で、先ほどの件ですが、“いい案”というのは?」
「うん、それなんだなけどね、写真集を送ってもらう住所を、俺の住所にすればいいんじゃないかなと思ったんだ」
「ええっ?」
「それなら、君の住所はバレないし、男の家にいると思わせれば、元彼さんも執着するのを諦めるだろう?」
「たしかに……」
言われてみればその通りだ。
住所も知られず、しかも新しい恋人ができたと思わせられる。
これなら、もう連絡してこないだろう。
「どう? やってみない?」
「え……でも、ご迷惑じゃ……」
「全然問題ないよ。夏帆ちゃんの悩みが解決するなら、お安い御用ですよ」
柔らかな笑顔に、夏帆は胸がくすぐったくなる。
(やばい……。あの屈託のない笑顔……女はあれに騙されるんだわ)
そう思いながらも、透也の申し出をありがたく受けることにした。
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
「そうと決まれば善は急げ! 今返信しちゃいなよ。住所は俺の“301号室”でね」
「あ、はい……」
【写真集は今いるここに送ってください→〒〇〇〇ー✖✖✖✖ 東京都江東区〇〇町3-3-1ヴィラージュ公園通り301 中条透也様宛】
夏帆は言われた通りに住所を打ち込み、送信した。
「送った?」
「はい」
「じゃあ、これで安心して食事を楽しめるね」
夏帆は頷き、店内の雰囲気を壊さないように携帯の着信音を消した。
ちょうどそのとき、飲み物とオードブルが運ばれてきたので、二人はグラスを軽く合わせた。
その頃――
駿介は、夏帆からの返事を今か今かと待ち続けていた。
手持ち無沙汰な時間が、焦りを募らせる。
(あいつ、まだ再就職してないんだから暇なはずだろ! なのになんですぐに返事が来ないんだよ。早くよこせよ……ったく、いつまで待たせるんだ)
苛立ちが頂点に達し始めたそのとき、着信音が鳴った。
(おっ、来た来た! やっぱり俺からの連絡が嬉しいんだな)
都合のいい解釈のまま、駿介はメッセージを開いた。
そこには――
【写真集は今いるここに送ってください→〒〇✖〇ー✖✖ 東京都江東区〇〇町3-3-10ヴィラージュ公園通り301 中条透也様宛】
「ふっ、江東区か。そんなに遠くないな……だったら、直接持っていってやるかな。マンションの名はヴィラージュ公園通り……」
読み進めた瞬間、駿介の声が裏返った。
「……はあっ? なんで中条透也の名前が!?」
大きな声が部屋の中に響き渡る。
その顔には驚愕と怒りが入り混じり、感情の制御が完全に吹き飛んでいた。
「なんで夏帆が、中条といるんだよ!」
意味が分からない、といった様子で吐き捨てると、駿介はすぐさま夏帆にメッセージを送り返した。
コメント
38件
駿介ꉂꉂ"( ,,>з<)ププッ! うわー続きがすごく楽しみ🤗
夏帆ちゃんを挟んで透也さんと駿介の関係をお互いまだ知らないのがドキドキワクワクします🤣 逃した夏帆ちゃんは大きすぎたねぇ〜、駿介🥀 ライバル視してる透也さんに夏帆ちゃんを取られた💢って逆ギレかな⁉️ちょっと心配😟
なんと出遅れていた私です💦やっと追いつけました☺️ ホストだと勘違いしている夏帆ちゃん😆本当の姿にびっくりするよね この先がとっても楽しみです🤭