テラーノベル
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営業も後半に入る。
ピークを過ぎた店内は、少しだけ温度が下がる。
笑い声も。
音楽も。
お酒の匂いも。
全部が少しだけ落ち着いて。
私は、ようやく一息ついた。
真瀬さんの席を離れる。
「また後で」
「うん」
それだけ。
引き止めない。
延長を急かさない。
「もう少し」とも言わない。
その距離に、いつも少しだけ安心する。
「おかえり」
声がする。
よく笑う人。
さっきまでの席に戻ると、
「取られたかと思った」
なんて大げさに言う。
「取られません」
「ほんと?」
「仕事ですから」
「それ、便利な言葉だよね」
笑いながらグラスを回す。
「高槻さんもよく言いますよ」
「え?」
「便利な言葉」
「俺?」
少し考えて。
「あー……確かに」
また笑う。
この人は、よく笑う。
そして、人を笑わせる。
それが上手い。
「でもさ」
珍しく声の調子が変わった。
「さっきの人」
私は顔を上げる。
「知り合いじゃないんだ」
「知り合いですよ?」
「店で、でしょ」
「……そうですね」
「ふーん」
それだけ。
それだけなのに。
なんだろう。
少しだけ。
探られている感じ。
「気になるんですか?」
冗談のつもりで聞く。
「うん」
即答だった。
「気になる」
私は一瞬、言葉に詰まる。
でも。
高槻さんは笑っていた。
いつもの顔。
「だって、初めて見たから」
「何をですか」
「ナナちゃんが、席戻るの急ぐの」
胸が小さく跳ねる。
「急いでません」
「そう?」
「そうです」
「ふーん」
同じ返事。
でも。
今度は、私の方が落ち着かない。
「なんか今日、意地悪ですね」
「そう?」
「そうです」
「じゃあ、意地悪な日なんだと思う」
私は思わず吹き出した。
「何ですか、それ」
「誰かさんの真似」
真瀬さん。
頭に浮かぶ。
同時に。
さっき、同じようなことを言われて笑った自分も思い出す。
「似てないですよ」
「似てない?」
「全然」
「残念」
笑う。
やっぱり、この人はよく笑う。
「ナナちゃん」
「はい?」
「俺、分かりやすい?」
突然。
そんなことを聞く。
「え?」
「いや、何でもない」
「気になります」
「気にしなくていい」
珍しく。
本当に珍しく。
誤魔化した。
そのとき。
離れた席から、誰かがこちらを見ていることに気づく。
視線。
フロアの端。
いつもよく見ている人。
言葉より先に、人の変化に気づく人。
目が合う。
その人は、静かにグラスを傾けた。
何も言わない。
でも。
なんとなく。
見られていた気がした。
高槻さんが私の視線を追う。
「あ」
小さく笑う。
「今日は賑やかだね」
冗談みたいに言う。
でも。
その笑顔の奥にあるものを。
私は、まだ知らない。
#角名倫太郎
紫 憂 .
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コメント
1件
お疲れさまー!!第37話読んだよ🌸 いやもう、今回もめっちゃ良かった……特に高槻さんが「ナナちゃん、席戻るの急ぐの」って言うシーン、心臓ギュッてなった😭💕 普段あんなにふわふわ笑ってる人が急にストレートに来るのがずるい!!そして「気になる」即答もヤバい…あれ絶対ただの冗談じゃないやつだよな!? 最後の「まだ知らない」で終わる感じも続きが気になりすぎて夜しか眠れん……!✨ 3人の関係性、もっと深く知りたいよ!!