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真白がいつもより口数が少ないことに、アレクシスは玄関に入った瞬間に気づいた。
「……ただいま」
声が低く、短い。
「おかえり。真白、大丈夫?」
「大丈夫じゃないってほどでもない」
そう言いながら、真白はコートを脱ぐのに少し時間がかかった。
動きが鈍い、というより、集中が続いていない感じ。
「熱、測った?」
「まだ」
「じゃあ先に測ろう」
アレクシスは自然な動きで体温計を差し出す。
真白は一瞬だけためらってから受け取った。
「……心配性」
「こういうときはそういう役なので」
ソファに座って待つ真白の横に、アレクシスも腰を下ろす。
近すぎない距離。でも、いつもよりは近い。
ピッ。
「……微熱」
「やっぱり」
「この程度なら寝れば治る」
「その前に、ちゃんとあったかくしよう」
アレクシスは立ち上がって、ブランケットを持ってくる。
真白の肩にかけてから、端を少しだけ整えた。
「……過保護」
「否定しません」
キッチンから、湯を沸かす音。
アレクシスはマグカップに白湯を注いで戻ってくる。
「飲める?」
「うん」
真白は受け取って、一口飲んだ。
「……あったかい」
「それ大事」
少し沈黙が流れる。
テレビはつけていない。時計の秒針だけが、静かに動く。
「ねえ」
「ん?」
「こういう時さ」
「うん」
「無理に元気出さなくていいって言われるの、嫌いじゃない」
「じゃあ、今日は元気出さなくていい日」
「……了解」
真白はブランケットを引き寄せて、背もたれに体を預けた。
目を閉じる。
そのまま動かなくなったのを確かめてから、アレクシスはそっと息をついた。
真白の肩に手を添え、起こさないように体を引き寄せる。
軽くはないが、思っていたよりも重さはなかった。
ブランケットごと抱え、音を立てないよう寝室へ運ぶ。
アレクシスは何も言わず、そのまま隣にいる。
しばらくして、真白の呼吸が少しだけ深くなった。
「……アレク」
「起きた?」
「起きた」
「手、冷たい」
アレクシスは迷わず、真白の手を取った。
「貸すよ」
「……借りる」
指先が絡むほどではない。
でも、離れない。
熱はすぐに下がらなくてもいい。
夜は静かで、部屋は暖かくて、隣に人がいる。
それだけで、十分だった。