翌日の月曜日、雪子は仕事が休みだった。
今日は、優子の夫の修が経営するカフェでのコーヒースクールの日だ。
雪子は張り切ってエプロンとノートと筆記用具をバッグへ入れる。
修のコーヒースクールは一ヶ月単位での受講が可能で、いつでも入れていつでもやめられる自由な方式だ。
趣味程度の人は大体三ヶ月程度で受講を終えるが、カフェオープンを目指している人は半年以上通う人も多い。
受講を終えた生徒の中には、既に静岡県や千葉県でカフェをオープンさせている人もいるようで、本格的に学べばカフェオープ
ンも夢ではない。
雪子は、とりあえず美味しいコーヒーを淹れる事を目的としていたので、趣味程度の軽い気持ちで受講していたが、
前回初めて講座を受けてみて、既にコーヒーの魅力にすっかりはまっていた。
2時間の講座の最後には、実際に自分でコーヒーを淹れる実技がある。
それを終えると美味しいケーキが出るので、
自分で淹れたコーヒーを飲みながらケーキをいただける。
受講生同士楽しくお喋りが出来る時間があるのも、この講座の魅力の一つだった。
一緒に受講している主婦の佐藤と塩崎は、実はそれも目当ての一つであると前回雪子に打ち明けてくれた。
一緒に受講する仲間が皆とても良い人達である事、そしてなんといっても講師がよく知った修であるという事も、
このスクールの心地の良さに影響しているのかもしれない。
この日は比較的暖かかったので、雪子はジーンズに白のカットソー、その上にサーモンピンクのカーディガンを羽織って出かけ
る事にした。
今日は車で行くので、薄着でも大丈夫だろう。
着替えを終えると、久しぶりにアクセサリーケースの蓋を開けてみた。
20歳の誕生日に母が買ってくれたガーネットのペンダントを久しぶりに着けてみる。
アクセサリーを着けるなんて凄く久しぶりだった。
家の戸締りをしてから、雪子は車へ乗り込んだ。
ガレージを出てしばらく走ると、海沿いの道に出るまでは少し渋滞していたが、
そこから先はスムーズに動いていた。
左手に海を眺めながらのドライブはとても快適だ。
穏やかな太陽光に反射した海面が、ゆらゆらと揺れていて見ているだけで癒される。
秋も深まってきたというのに、沢山のサーファーが波乗りをしていた。
この見慣れた風景も、雪子が大好きな景色の一つだった。
大好きな男性アーティストの曲を流しながら鼻歌交じりでドライブを続けていると、
あっという間に修のカフェへと着いた。
駐車場にはまだ車が一台も来ていない。
雪子は一番端に車を停めると、バッグを手にして店の中へと入って行った。
「おはようございます」
「ああ、雪子ちゃんいらっしゃい」
「雪子、おはよ!」
「あれ? 今日は優子もいるの?」
「うん、雪子がちゃんとやっているかチェックしに来たの!」
優子はそう言って笑った。
「ちゃんとやるもなにも、私の本当の目的は美味しいコーヒーとケーキなんだからねぇー」
雪子が冗談交じりに言うと、
「おーい、あんたは食べるのが目的かいっ!」
優子はそう言って雪子の頭を軽くごっつんとする。
そして二人で声を出して笑っていると、修が来て言った。
「お二人さん、楽しそうなのはいいけれど、これをテーブルに並べてくれないか」
修は、今日使うコーヒー豆を二人に手渡した。
二人は受け取った豆を受講生の席へ置いていく。
「あれ? 今日は5名ですか?」
雪子が聞くと、修が言った。
「うん、そう。また一人新しい人が入ったんだよ」
「へぇ。修さんのスクール、大人気ですね」
「ほんとね、口コミでしかスクールの宣伝はしていないのにね」
優子も不思議だわという顔をして言った。
そこへ、ドアのベルがカランコロンと鳴り女性が2人入って来た。
先週も来ていた主婦の受講生だ。
二人は佐藤と塩崎という女性で、どちらも40代の主婦だった。
二人は子供の学校のお母さん友達のようだ。
二人はとても感じの良い女性で、前回の講座では女三人すっかり意気投合した。
「おはようございます」
雪子が声を掛けると、
「浅井さん、おはようございます」
「おはようございます」
と二人は挨拶を返してくれる。
するとまた一人、ドアのベルが鳴り男性が入って来た。
入って来た男性は、コーヒースクールの受講者の中で唯一の男性の滝田だった。
滝田は会社を早期退職した50代半ばの男性で、今は退職金を投資で運用しながらこの海辺の町で一人暮らしをしていた。
元々コーヒー好きだった事から、このスクールに興味を持ったらしい。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
滝田が礼儀正しく女性陣に挨拶をすると、
雪子達も、
「おはようございます!」
「よろしくお願いします」
「おはようございます!」
と皆が挨拶を返す。
滝田は空いている席に着くと言った。
「あれ? 今日はもう1人いるのかな? 席が5つありますね」
「そうみたいですね。新しい人が来るのかな?」
塩崎が頷きながらそう返事をした。
そしてどんな人が来るのかと楽しみにしていた。
そこへ、ドアが開いてまた一人男性が入って来た。
この店の営業は午前11時からだったが、
コーヒースクールは、店のオープン前の午前9時から11時までの2時間で行なわれる。
今入って来た人物が新たな受講者かもしれないと思った四人は、一斉にドアの方を見る。
するとそこには俊が立っていた。
雪子はびっくりして声も出ない。
俊は店の奥に雪子がいる事にはまだ気づいていなかった。
(新しい受講生って、一ノ瀬さんなの?)
雪子がそう思っていると、
俊は奥から出て来た修と何やら親し気に会話を始めている。
そこへ優子も加わり、修が優子を俊に紹介しているようだった。
三人はしばらくの間、笑い声を交えながら立ち話を続けていた。
コメント
3件
修さんのお陰で共通点が結ばれましたね😙
優子さん、俊さんが今日来るのを知ってたから、だから来たっ🤭
修さんの☕️スクールに俊さんが来た‼️ 雪子さんは修さんと俊さんが友達なのは知らないからビックリドッキリ‼️だね🫢 それにしても飲食店のプロが☕️スクールの講習に来たって誤解してる雪子さんが天然でいいわ〜🤭