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#角名倫太郎
紫 憂 .
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コメント
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あ、第46話……すごく好きな回でした。 真瀬さんの「無理して笑わなくても、ちゃんと笑える日が来るといいね」って台詞、心にじんわり沁みました。励ましでも口説きでもなく、ただ思ったことをそのまま言う感じが、この人の距離感だなって。 それに、ナナさんが「仕事なので」って言った後に「便利な言葉だね」って返すところ、すごくリアルで苦い気持ちになりました。三崎さんのラストの一言もいいアクセントですね。日常の中の繊細な感情の揺れが丁寧に描かれていて、読んでよかったです🌷
真瀬さんの席へ戻る。
「お待たせしました」
「ううん」
いつもと同じ返事。
急かさない。
責めない。
ただ、私が座るのを待っている。
グラスを作る。
氷を入れて、お酒を注いで、水を足す。
手はいつも通り動く。
でも、頭のどこかには、さっきの高槻さんの言葉が残っていた。
──好きな相手には、無意識に話し方変わるよ。
そんなこと、あるんだろうか。
「何か考え事?」
真瀬さんの声で我に返る。
「え?」
「珍しい顔してる」
そんな顔をしていたらしい。
私は笑ってごまかす。
「ちょっと疲れてるだけです」
「そう」
追及はしない。
それも、この人らしい。
「今日は混んでますね」
「金曜日なので」
「毎週こんな感じ?」
「だいたい」
会話はゆっくり続く。
途切れても困らない。
無理につながなくても、不思議と空気が悪くならない。
その静けさに慣れてしまった自分が少し怖い。
「そういえば」
真瀬さんがグラスを置く。
「最近、忙しそうだね」
私は少し笑う。
「分かります?」
「分かる」
短い返事。
「前より席を立つ回数が増えた」
そんなところまで見ているんだ。
少しだけ驚く。
「最近、お客さん増えたので」
「そう」
真瀬さんはそれ以上聞かない。
「疲れない?」
「疲れますよ」
正直に答える。
「でも、仕事なので」
言った瞬間、またその言葉だ、と思った。
仕事なので。
最近、何度口にしただろう。
真瀬さんは少しだけ笑う。
「便利な言葉だね」
私は思わず笑ってしまう。
「高槻さんにも、同じこと言われました」
「そうなんだ」
その一言だけ。
探ることもしない。
続けて聞くこともしない。
ただ受け止める。
私はその横顔を見ながら思う。
この人は、人の話を聞くとき、自分の話をほとんどしない。
答えを急がせない。
だから気づくと、自分の方が話している。
それが、不思議だった。
「真瀬さんって」
口を開いてから、少し迷う。
「ん?」
「お仕事、人と関わることなんですか?」
初めて聞く質問だった。
真瀬さんは少しだけ笑う。
「どうして?」
「なんとなく。人の話、聞くの慣れてるなって」
少し考えてから、
「半分正解」
とだけ返ってくる。
「半分?」
「全部話すと長くなる」
「じゃあ、また今度聞きます」
「そのうちね」
曖昧な約束。
でも、不思議と嫌じゃない。
そのときだった。
「失礼します」
黒服が近づいてくる。
「真瀬様、お時間になります」
「ああ」
真瀬さんは時計を見る。
「早いね」
「今日はあっという間でした」
私が言うと、
「そうだね」
その返事だけで終わると思った。
でも。
財布を取り出しながら、真瀬さんはふと私を見た。
「ナナ」
名前を呼ばれる。
「はい?」
「無理して笑わなくても、ちゃんと笑える日が来るといいね」
一瞬、言葉が出なかった。
営業中に言われる言葉じゃない。
励ましとも違う。
口説き文句でもない。
ただ。
思ったことを、そのまま言われた気がした。
「……ありがとうございます」
それしか返せない。
真瀬さんは小さく頷いて立ち上がる。
「また来る」
「お待ちしてます」
いつもの言葉。
でも。
ドアの向こうへ消える背中を見ながら、私はさっきより少し長く立ち尽くいていた。
「見送る癖、ありますよね」
静かな声が聞こえる。
振り向く。
少し離れた席。
グラスを傾けながら、三崎さんがこちらを見ていた。