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真白は、アレクシスが帰ってくるまでの数時間を、持て余していた。


在宅の日でもない。

休みでもない。

ただ、仕事が早く終わっただけだ。


ゲーム会社のフロアを出た瞬間、次にやることが消えた。

寄り道も思いつかない。

帰るには早すぎる。


結果、真白は家に戻り、何もせずにいた。

照明もつけず、カーテンも半分だけ閉める。


ソファに座り、時計を見て、やめる。


「……使いどころ、間違えたな」


独り言は、誰にも届かない。


アレクシスが帰宅したのは、いつもより少し遅い時間だった。


「ただいま」

「……おかえり」


声は平常だが、間が微妙に長い。

靴を脱ぎながら、アレクシスは室内を見回した。


「暗いね」

「うん」

「疲れてる?」

「別に」


否定は即答だった。

アレクシスはそれ以上聞かず、上着を掛ける。


「今日は何してた?」


少し考えてから、真白は言う。


「何も」

「本当に?」

「本当に」


アレクシスは、少しだけ首を傾げた。


「珍しいね」

「うん。時間が余った」

「余る?」

「使い切れなかった」


その表現に、アレクシスは小さく笑う。


「時間って、使い切らなくてもいいんじゃない?」

「……それができるなら楽」


真白はソファの端に寄り、空いた隙間を示す。

アレクシスはそこに腰を下ろした。


「俺は、今日は足りなかった」

「仕事?」

「仕事。あと、人」

「人」

「会話が多かった」


真白は少しだけ口角を上げる。


「今は?」

「今は、ちょうどいい」


沈黙が落ちる。

不快ではない。

真白は、ふと尋ねた。


「ねえ」

「ん?」

「今日の俺、変?」

「静か」

「それはいつも」

「じゃあ、少しだけ所在なさそう」

「……正解」


真白は背もたれに頭を預ける。


「時間が余るとさ、

自分が空っぽみたいになる」

「埋めなくていい?」

「埋め方が分からない」


アレクシスは、しばらく考えてから言った。


「じゃあ、一緒に余らせようか」

「どうやって」

「何もしないまま」

「……それ、意味ある?」

「意味がないのが、たぶん目的」


真白は一度目を閉じて、また開いた。


「アレクシスって、変」

「今さら?」

「今さら」


二人で、また黙る。

時間は進んでいるのに、消費されない。

それが、少しだけ心地いい。


「夕飯、どうする?」

「決めていい」

「簡単でいい?」

「うん」


アレクシスは立ち上がり、キッチンへ向かう。


真白は、その背中を見て思う。


余った時間は、捨てなくていい。

誰かと並べて置いておけば、それでいい。


今日は、それを覚えた日だった。

ひとつ屋根の下、コーヒーの香り。

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