TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

よはく探偵社の事務所は、昼過ぎになると妙に静かになる。

電話も鳴らず、外の車の音だけが、窓越しにぼんやり届いていた。


「……暇だな」


真琴が椅子を少し後ろに倒しながら言うと、向かいの机で書類を見ていた伊藤が顔を上げた。


「今のうちに溜まってる事務片付けとけって話だろ」

「それはもう十分やった。十分すぎる」


真琴は机に突っ伏し、視線だけを横に流す。

伊藤は相変わらず淡々としているが、探偵社に入ってから、以前よりも表情が柔らいだ気がする。


ドアがノックされる音がした。


「どうぞ」


入ってきたのは、スーツ姿の男だった。

木津だった。


「木津さん?」


名前を呼ぶと、木津は一瞬だけ足を止め、それから苦笑した。


「その呼び方、やっぱ落ち着かないな」

「じゃあどう呼べばいい」

「別に変えなくていい」


そう言いながら、木津は事務所を見回す。


「今日はどうしたの」


真琴は椅子を戻し、姿勢を正す。

仕事の顔になるのが早い、と伊藤は内心で思った。


「相談というか……確認というか」


木津は一枚の紙を差し出した。

警察内部の様式だが、正式な書類ではない。下書きのようなものだ。


「また、警察絡み?」

「正確には“警察が扱いきれない案件”だ」


その言い方に、真琴の眉がわずかに動く。


「木津さん、それ多すぎない?」

「分かってる。でも今回は少し毛色が違う」


木津は視線を伊藤に向ける。

一瞬、空気が張った。


「……伊藤さんも、関係ある?」

「いや。今回は“関係ないからこそ”話したい」


伊藤は肩をすくめる。


「俺は事務担当だぞ。聞かれて困る話でもない」

「そういう意味じゃない」


木津は言葉を選ぶように、一拍置いた。


「今回の件、表に出せば“事故”で終わる。だが、現場にいた人間が、どうしても腑に落ちない点がある」

「現場に警察は?」

「いる。だからこそ動けない」


真琴は紙に目を落としたまま言った。


「なるほどね。警察がいる事件。だけど、警察じゃ掴めない違和感」

「そうだ」


事務所に沈黙が落ちる。

それは重い沈黙ではなく、仕事の前の静けさだった。


「引き受けるかどうかは、まだ決めない」


真琴は顔を上げる。


「でも、話は聞く」


木津は、少しだけ安堵したように息を吐いた。


「それでいい。無理にとは言わない」

「その代わり」


真琴ははっきり言った。


「中途半端な情報は要らない。警察側の事情も、木津さん自身の立場も、全部含めて話して」


木津はうなずいた。


「……分かった」


伊藤は静かにペンを置く。


また一つ、よはく探偵社に“警察が関わる事件”が持ち込まれたのだと、確信していた。


そしてそれが、これから続く流れの入口になることも。

よはく探偵社「沈黙は罪を選ばない」

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

14

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚