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放課後の理科準備室。窓から射しこむ夕陽が、棚の薬品瓶を淡く染めている。
コンコン――控えめなノック。日下部は顔を上げた。
来訪者(高1・女子)
「失礼します……」
リュックを胸に抱えたまま、彼女は椅子に腰かける。
「最近、仲のいい友達と話すたびに、
“本当に仲良しなのかな”って不安になるんです。
少しLINEが遅いだけで、嫌われたのかって考えてしまって」
日下部
「返事が遅いと、頭の中でいろいろ広がるよな。
俺も昔、秒で“終わった”って思ったことある」
来訪者
「え、日下部先輩でも?」
小さく笑いがこぼれる。
日下部
「あるさ。
でもな、相手の時間って、
その人だけのペースで流れてる。
自分の気持ちと同じリズムを
相手に求めなくてもいいんだ」
来訪者
「……でも、距離ができたみたいで怖くて」
日下部
「近くにいても、心の温度は
それぞれ違う。
無理に重ねなくても、
温度が違うまま一緒にいられるのが
本当の友達だと俺は思う」
来訪者
「温度が違うまま……」
日下部
「そう。
“同じじゃなくても平気”っていう
静かな安心感。
その空気があるなら、距離は壊れてない証拠だよ」
夕陽が沈みきるころ、
彼女はリュックを下ろして
「少し心が軽くなりました」と言った。
日下部は笑みを返す。
「違う温度を持てる友達、
それってかなり強い絆だよ」
準備室には、ほのかなオレンジ色だけが残った。