テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後、軋むドアが小さく音を立てて開いた。入ってきたのは、少し不思議な雰囲気を纏った女子生徒だった。
「……あの、ここって――」
「あー、相談室。で、合ってるよ」
蓮司は椅子をくるりと回し、靴のままテーブルに脚を乗せたまま軽く笑う。
「なんか、見たことある顔だな。誰のクラスだっけ」
「……二組。あんたと同じ学年でしょ。名前は、別に言わなくていい?」
「いいよ別に。顔も名前も、どうせすぐ忘れるし」
彼女は少し目を細め、唇を歪めるように笑った。その口元が、どこか誰かに似ていた。誰だったか――そう、遥。
ただ、遥のような棘はない。むしろ、その棘の根っこだけを置いてきたような、柔らかい諦めのにおいがする。
「……誰かのこと、好きになっちゃったんだよね」
「そっか。そいつ、クズ?」
「うん。最低」
蓮司は笑った。
「いいじゃん、それくらいのが。付き合えば?」
「――もう、付き合ってた」
返す言葉に、彼は眉を少しだけ動かした。けれど、表情は変わらない。
「で、捨てられた? 飽きられた? 壊れた?」
「……さあ。どれも当てはまらない気がする。ただ……冷たくなっただけ」
「へえ。面白いな。人って、冷たくなる理由があるんだよ。大体は、自分が壊れる前に、相手を見捨てるため」
その言葉に、彼女は小さくうつむいた。椅子に腰かけ、うつむいたまま、ぽつりとつぶやく。
「……自分のこと、ずっと我慢してたのかも。嫌われないようにしてた。でも……気づいたら、誰にも好かれてなかった」
「よくあるやつだ。俺も、たまにそう思う。いや、俺の場合は、全部バレてるけどね。“こいつ、適当に話してんな”って」
「じゃあ、なんで……それでも、笑っていられるの?」
蓮司はほんの一瞬だけ、視線を逸らす。けれど、その直後にはもう、いつものような飄々とした調子に戻っていた。
「笑ってるほうが、怖がられないから。俺、殴られるの嫌いなんだよ」
彼女は一瞬だけ眉をひそめて、でもそれ以上は聞かなかった。
そして、数秒の沈黙ののち、ぽつりと漏らす。
「ねえ……わたし、あんたのこと、ちょっとだけわかるかも」
蓮司はその言葉に、無言で立ち上がり、部屋の棚から紙コップを取り出した。
「甘いやつ飲む? たぶん、相談室って、こういうのあるんでしょ。適当に入れといた」
紙コップの中でゆっくりと溶けるミルクティーの匂いが、少しだけ部屋をやわらげた。