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放課後の相談室は、外の夕日を吸いこんで静まり返っていた。
カーテンの隙間から差し込むオレンジ色が、壁際の椅子を淡く染める。
「こんにちは」
ドアを開けたのは、落ち着かない表情の女子生徒。
机の奥にいる遥が、小さくうなずいた。
「ここ、入ってもいい?」
「……どうぞ」
女子は椅子に腰を下ろし、しばらく黙った。
やがて、か細い声で言う。
「人に頼るのが、怖いんだ。
頼ったら裏切られる気がして……。
でも、一人でいるのも苦しくて」
遥は少しだけ目を細め、窓の外を見た。
返す言葉を探している間、時計の針だけが小さく動く。
「……俺も、似たようなもんだよ」
その声は低く、けれどはっきりしていた。
女子は顔を上げた。
「本当?」
「うん。
人に何かを預けるって、怖い。
重さをそのまま渡すのが。
でもさ……たまに、誰かがただ隣にいるだけで
少しだけ楽になることもある」
女子は息を呑むようにして黙った。
遥は視線を合わせずに続ける。
「無理に話さなくてもいいし、
頼らなくてもいい。
ただ、ここに来たってことは……
自分の声を誰かに聞かせたいって、
心のどこかで思ってるんじゃない?」
女子はゆっくりと頷いた。
目元がわずかに緩む。
遥は小さく息を吐き、
「それだけでも、強いと思う」
とだけ言った。
夕日がさらに赤くなり、
部屋に淡い影が伸びていった。