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『十一月に戦力外通告を受け、自由契約となった元福岡ハードバンクファルコンズの投手、高西賢選手が、東京ヨグルトスパローズへ移籍が決定しました。高西選手はドラフト一位で──』
二〇二六年、クリスマスイブの朝、情報番組のスポーツコーナーを、ラジオのように流し聞きしていた坂口 志絵は、箸で摘んでいたウインナーを口に運ぼうとしていた手を、ピタリと止めた。
女性アナウンサーは、志絵が高校一年生の時にクラスメイトだったプロ野球選手、高西賢について、若干明るめの声色でニュースを読み上げている。
『なお、高西投手は、来年の二月に行われる春季キャンプから、チームに合流予定です。続きまして──』
──高西が東京に戻ってくる。
志絵は、ウインナーを箸で摘んだまま、呆然とテレビ画面に目を向けていた。
(アイツ……日本シリーズでちょっとだけ投げてたのは知ってたけど…………戦力外通告を受けていたなんて……)
母校初のプロ野球選手になった同級生が、実質クビになった現実をニュースで突き付けられた志絵は、複雑な思いで耳を澄ませていた。
(高西のヤツ、ヤケになってなきゃいいけど……。でも移籍先はセ・リーグか。テレビで観られる機会が増えるかも……)
賢を気に掛ける心境とニュースに気を取られていたせいか、ウインナーが箸からポロリと落ち、テーブルの上で跳ねた後、床に転がっていく。
「ああもうっ! 貴重な朝ごはんのおかずがぁ〜っ!!」
志絵はゲンナリしながらウインナーを拾うと、食器を片付けてシンクに運ぶ。
テレビ画面の左上に表示されている時刻を横目に見ると、七時四十五分。
「ヤバッ! そろそろ準備しなきゃ!!」
バタバタと洗面台に向かい、鏡を見ながら急いで髪を整える。
緩くパーマが掛かった黒髪は短めのボブスタイル、黒い瞳のキャットアイ。
キリッとした顔立ちは、幼少の頃、よく男の子に間違われたのを思い出す。
たまには女性らしく髪を伸ばそうか、と考える事もあるけれど、自分の顔立ちとロングヘア、といった組み合わせがピンとこない。
志絵は慌てて出かける準備を整えると、トートバッグを肩に掛け、そそくさと仕事に向かった。
年末で混雑している地下鉄丸の内線に乗り込んだ志絵は、漆黒に覆われた空間を車窓越しに眺めながら、朝のスポーツニュースを思い出す。
(アイツ…………スパローズに移籍したし、来年一月のクラス会……来るのかな……)
高校を卒業してから、毎年一月に一年八組のクラス会が立川で行われている。
志絵は、皆勤賞のように毎年参加しているけど、賢はここ数年、参加していない。
野球好きの彼女は、彼がプロ野球選手になってから遠征で東京に来た際、数回ほどファルコンズの試合観戦に行っているものの、実際にマウンドに上がって投球しているのを見たのは一度だけだ。
『まもなく、銀座、銀座です。銀座線、日比谷線はお乗り換えです』
車内アナウンスで我に返った志絵は、人混みを掻き分けながら電車を降りた。
コメント
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読了しました。同級生のプロ野球選手・高西賢が戦力外→移籍というニュースを、朝の慌ただしい時間に聞く志絵さんのシーン、すごく日常感と心情が溶け合っていて引き込まれました。「アイツが戻ってくる」というタイトルも、地理的な移動だけでなく、彼女の中での過去との再会を予感させて良いですね。ウインナーを落とす小さな描写から彼女の動揺が伝わってきて、続きでクラス会がどう展開するのか気になります。