テラーノベル
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ドアが開く。
相談者は椅子に座ると、苦笑した。
「よく言われる言葉があるんだ」
蓮司は向かいに座る。
「何だ」
「『今が一番若いんだから』」
少し間が空く。
「励まされた?」
「励まそうとしてくれたのは分かる。でも、何か焦る」
蓮司は相談者を見た。
「どう焦る」
「今が一番若いなら、今日も無駄にできない気がして」
静かな時間が流れる。
「何もしなかった日が、急に損した日みたいになる」
蓮司は少し考えた。
「その言葉、お前の中で変換されてるな」
相談者は首を傾げた。
「変換?」
「『今が一番若い』が、『今すぐ何か結果を出せ』になってる」
相談者は少し黙った。
「……確かに」
「本当は違う話だ」
「違う?」
「時間は戻らないって話であって、今日中に人生を変えろって話じゃない」
少し沈黙が流れる。
相談者は机を見つめる。
「でも、周りを見ると焦るんだよ」
「何を見る」
「資格取ったとか、夢が決まったとか、頑張ってる話」
「自分は?」
「今日一日終わっただけ」
蓮司は静かに聞いていた。
「一日終わっただけの日は、駄目か」
相談者はすぐには答えなかった。
「……駄目ではない」
「じゃあ何で責める」
「何も残ってない気がするから」
蓮司は少し笑った。
「残るものしか、一日じゃないと思ってるな」
相談者は顔を上げる。
「違うのか」
「寝不足の日に寝る」
「うん」
「落ち込んだ日に休む」
「うん」
「それも次の日のために残ってる」
相談者は黙る。
「見えないだけか」
「成果にならない時間もある」
少し静かな時間が流れる。
相談者はぽつりと聞いた。
「じゃあ、『今が一番若い』って、どう受け取ればいいんだろ」
蓮司は少し考えた。
「『まだ遅くない』くらいでいい」
相談者は少し笑う。
「それだけ?」
「それ以上背負わせる言葉じゃない」
「何か安心した」
蓮司は続ける。
「励ましの言葉って、人によって効き方が違う」
相談者は頷く。
「元気になる人もいれば、焦る人もいる。だから、自分に合わない励ましまで無理に信じなくていい」
少し沈黙が流れる。
相談者は立ち上がった。
ドアの前で振り返る。
「『今が一番若い』じゃなくて、『まだ遅くない』」
「そのくらいの方が歩きやすいだろ」
相談者は小さく笑う。
「今日はそれで帰る」
「十分だ」
ドアが閉まる。
同じ言葉でも、人によって力になることもあれば、重荷になることもある。
だから、前向きになれない自分を責めるより、自分が少し歩きやすくなる受け取り方を探してもいいのかもしれない。
コメント
1件
【第29話の感想】 「今が一番若い」が「今すぐ結果を出せ」に変換される感覚、めっちゃ分かる……。励ましのつもりが焦りに変わるの、あるあるだわ。それを蓮司が「まだ遅くない」くらいでいいって返すのが、すごく優しくて刺さった。成果にならない時間も次に繋がってる、って考え方にちょっと救われた。ruruhaさんの対話の書き方、いつも心に染みるわ~。ありがとう!
蒼蔴
70
シュメール
306
眠狂四郎
734
ruruha
224