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あれ以降、殴られる順番が決まった。
「じゃ、次はお前な」
「同意してるから大丈夫だろ」
じゃれ合いの延長みたいな口調で、拳が来る。
遥は机の横に立たされ、逃げ場を塞がれた。
腹。
肩。
背中。
力は日によって違う。
強すぎると問題になる。
だから、“問題にならない強さ”だけが選ばれる。
「ほら、嫌なら避けろよ」
「避けないってことは、そういうこと」
誰かが笑いながら言う。
教師は視線を向けない。
視界に入れてしまえば、止めなければならなくなるからだ。
遥は歯を食いしばった。
声は出さない。
出せば、「騒いだ」ことになる。
(殴られてるのに……静かじゃないといけない)
その矛盾が、体の奥で軋む。
次第に、殴る理由が変わっていった。
「昨日も抵抗しなかったよな」
「慣れてるってことじゃん」
“慣れ”が、新しい許可になる。
ある日は、椅子に座らされたまま殴られた。
逃げられない状態を作るためだ。
「立つと動くからさ」
「座ってろ。安全だろ?」
拳が腹に入るたび、視界が揺れる。
それでも、遥は声を出さない。
「すげぇ、ほんと何も言わねぇ」
「先生、こいつ全然平気っすよ」
教師が一瞬だけこちらを見る。
遥は、反射的にうつむいた。
――大丈夫なフリをしないと、もっと悪くなる。
それが条件反射になっていた。
殴る側は、だんだん雑になっていく。
蹴りが混ざる。
机に押し付ける。
壁にぶつける。
「ほら、同意」
「嫌じゃないよな?」
その言葉が出るたび、遥の中で何かが削れていく。
(俺が……選んでるみたいじゃないか)
放課後、誰もいなくなった教室で、追加が始まる。
「昼は遠慮したし」
「ここなら問題ないよな」
遥は立たされ、両腕を机に押さえつけられた。
背中に衝撃が走る。
息が詰まる。
視界が白くなる。
「おい、倒れんなよ」
「倒れたら“やりすぎ”になる」
気遣いのような言葉が、逆に残酷だった。
遥は必死に立ち続ける。
殴られながら、条件を守る。
――倒れないこと。
――声を出さないこと。
――抵抗しないこと。
それが“同意の証拠”として積み上がっていく。
翌日には、噂が形を変えていた。
「殴られても平気なやつ」
「自分から行ってるらしい」
遥が殴られると、周囲はもう驚かない。
日常の風景として受け取る。
教師は言った。
「トラブルを起こさないのは、いいことだ」
その言葉で、すべてが確定した。
(……俺は、守られない)
それどころか、
殴られてもいい存在として整理された。
遥は今日も、反撃しない。
しないことでしか、生き延びられないからだ。
だが、殴る側は知っている。
――次は、もっとやっても大丈夫だと。
「同意」は、もう撤回できない。
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