テラーノベル
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ドアが開く。
入ってきた相談者は、座る前に一度立ち止まった。
「今日は遅いな」
「来るか迷った」
「来たな」
「来た」
椅子に座る。
「急にさ」
「うん」
「全部どうでもよくなる日ある」
蓮司はすぐ返さない。
「例えば」
「朝は普通。
学校来る。
友達と話す。
笑う」
指が机を軽く叩く。
「で、昼過ぎ」
「うん」
「切れる」
「切れる?」
「興味が」
少し間。
「何しても意味ない感じ」
「虚無」
「それ」
「理由は」
「ない」
「前触れ」
「ない」
「昨日まで普通?」
「普通」
沈黙。
「誰かに何か言われたとか」
「ない」
「嫌なことあった」
「ない」
「なのに」
「全部無価値になる」
蓮司は椅子に背を預ける。
「それな」
「うん」
「燃料切れ」
「燃料?」
「気遣い燃料」
相談者は笑わない。
「毎日さ」
蓮司が続ける。
「周りに合わせて
空気読んで
微調整して」
「してる」
「それ、ガソリン食う」
「食う」
「で」
「?」
「空になる日がある」
少し沈黙。
「空になると」
「うん」
「感情も止まる」
「止まる」
「楽しいも止まる」
「止まる」
「好きも止まる」
「止まる」
「嫌いも止まる」
「止まる」
相談者は小さく頷く。
「怖いのはさ」
「うん」
「その状態でも」
「うん」
「普通に会話できる」
「できるな」
「笑える」
「笑える」
「だから」
少し間。
「誰にも気付かれない」
蓮司は視線を上げる。
「自分でも気付くの遅いだろ」
「遅い」
「気付いたときには」
「?」
「もう全部どうでもいい」
沈黙。
「帰り道とか」
相談者が言う。
「急に」
「うん」
「このまま消えても
別にいいかってなる」
蓮司はすぐに返さない。
「死にたいじゃない」
「うん」
「ただ」
「?」
「続ける理由が消える」
少し長い沈黙。
「それ」
蓮司が言う。
「壊れてるわけじゃない」
「違う?」
「省電力モード」
「……スマホかよ」
「熱持ちすぎたときに落ちるやつ」
相談者は少し笑う。
「強制再起動?」
「近い」
「じゃあ」
「うん」
「どうすればいい」
蓮司は机を指で軽く叩く。
「その日」
「うん」
「重要な決断すんな」
「……」
「関係切るとか」
「うん」
「全部やめるとか」
「うん」
「未来決めるな」
相談者は頷く。
「判断能力、落ちてる?」
「落ちてる」
「全部どうでもいい状態で決めると」
「うん」
「あとで後悔する」
「するな」
「その日は」
蓮司は続ける。
「生存だけ」
「生存」
「帰る。食う。寝る」
「それだけ?」
「それだけ」
「回復する?」
「だいたい戻る」
相談者は天井を見る。
「戻るんだよな」
「戻る」
「でも」
「?」
「また来る」
「来るな」
「周期ある?」
「ある人はある」
少し沈黙。
「俺さ」
「うん」
「その状態のとき」
「うん」
「誰とも会いたくない」
「会うな」
「でも」
「?」
「一人だと」
言葉が止まる。
「?」
「戻れない気がする」
蓮司は少しだけ笑う。
「だから来た?」
「たぶん」
間。
「ここで何する」
「特に」
「喋る?」
「少し」
「それでいい」
相談者は立ち上がらない。
「どうでもいい日ってさ」
「うん」
「何も感じないのに」
「うん」
「ちょっとだけ」
「?」
「誰かにいてほしい」
蓮司は肩をすくめる。
「矛盾してんな」
「してる」
「でも普通」
少し沈黙。
「今日、帰れる?」
「帰れる」
「食える?」
「食える」
「寝れる?」
「たぶん」
「なら合格」
相談者は小さく息を吐く。
「全部どうでもよくなる日」
「うん」
「人生の判断、禁止な」
少しだけ笑う。
「了解」
ドアの前で止まる。
「明日」
「うん」
「戻ってるかな」
「だいたい戻る」
「戻ってなかったら」
「?」
「また来る」
「更新制」
「それな」
ドアが閉まる。
どうでもいい日は、
人生を決める日じゃない。
ただの、燃料切れの日だ。
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