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ruruha
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きゆう
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📩 相談
高校二年・Mさん
友達が困っていたら、できるだけ助けるようにしています。相談にも乗るし、頼まれたこともなるべく断らないようにしています。
でも最近、自分が本当に相手のためにやっているのか、分からなくなりました。
助けたあとにお礼を言われると嬉しいし、頼られなくなると寂しいです。自分がいなくても平気そうだと、少し腹が立つこともあります。
相手のためだと思っていたのに、結局、自分が必要とされたかっただけなのかなって。
そう考えると、今までしてきたことまで全部偽物だったような気がします。
人に優しくする理由が、自分のためでもいいんでしょうか。
相談室に来た三人は、相談文を読み終えてもしばらく口を開かなかった。
最初に声を出したのは蓮司だった。
蓮司「別に、いいんじゃないの。お礼を言われたら嬉しいし、頼られたら気分がいい。そんなの普通だろ」
日下部「普通だから問題ない、とはならないだろ。相手のためと言いながら、自分の満足を優先することもある」
蓮司「そうだな。だからって、自分の満足が混ざってたら全部駄目なのかって話じゃない?」
日下部「全部駄目とは言ってない。相手が断れない状況を利用して、自分が必要とされることを優先したら、それは別の話だ」
遥「……でも、そこまで考え始めたら、何もできなくならない?」
二人が遥を見る。
遥「助けたいって思っても、感謝されたいとか、嫌われたくないとか、そういうのって自分でも気づかないうちに混ざってるかもしれないし。全部ちゃんとした理由じゃなかったら、やらない方がいいのかなって」
蓮司「遥は、理由がきれいじゃないと行動しちゃいけないと思う?」
遥「いや……そういうわけじゃないけど」
蓮司「でも、今の話ってそういうことだろ。誰かの役に立ちたい。その相手に必要とされたい。自分のことも好きでいてほしい。三つともあったら、どれか一つが本物じゃないってことになる?」
遥「……ならないと思う」
蓮司「じゃあ、なんで一個でも自分のための理由が見つかったら、全部偽物になるんだろうな」
遥は相談文へ目を落とした。
答えが分からないというより、問いの立て方そのものに、うまく馴染めないような顔だった。
日下部「ただ、本人が気にしているのは理由が混ざっていることだけじゃないと思う。相手から感謝されなくなったとき、自分がどうなるのか。そこも怖いんじゃないか」
蓮司「頼られなくなったら寂しい、って書いてあるしな」
遥「……寂しいのは、別に悪くないと思う」
日下部「そうだな」
遥「頼られて嬉しかったのも本当なんだし。急に頼られなくなったら、今までみたいに話せなくなるのかな、とか……もう自分はいらないのかな、とか。そういうことを考えるのも、仕方ないんじゃないかな」
蓮司「仕方ない、で終わらせていいかは別だけどな」
遥「うん。……でも、そう思ったからって、相手に何かを返せって言うわけじゃないなら」
日下部「寂しいと感じることと、相手に責任を負わせることは違う。そこは分けて考えていい」
蓮司「そうそう。寂しいからって『俺がこれだけやってあげたのに』って請求書を出し始めたら話は変わる。でも、心の中でちょっと不満に思っただけで、今までの行動まで取り消す必要はないだろ」
日下部「問題になるのは、その感情をどう扱うかだな。相手が自分を必要としなくなったことを受け入れられず、罪悪感を持たせたり、離れられないようにしたりするなら、相手のためという言葉を使って自分の欲求を押し通していることになる」
遥「……じゃあ、相手のためにしたことでも、あとから自分が嫌な気持ちになったら?」
蓮司「なるだろ。人間なんだから」
遥「そうじゃなくて。自分が嫌な気持ちになったなら、最初から相手のためじゃなかったってことになるのかな」
日下部「ならない。結果として嫌な気持ちになったことと、最初に何を考えていたかは別だ」
遥「……そっか」
その返事は小さかった。
日下部は少し考えてから、相談文の一文を指でなぞった。
日下部「『今までしてきたことまで全部偽物だったような気がします』。ここが一番引っかかる」
蓮司「過去の行動を、今の疑いで全部塗りつぶしてるんだよな」
日下部「助けられて楽になった相手がいたなら、その人が楽になった事実まで消えるわけじゃない。自分に別の欲求があったとしても、それは変わらない」
蓮司「もちろん、相手が助かったから何をしても正しかった、って話でもないけどな。自分が気持ちよくなるために相手を傷つけていたなら、そこは見直さないといけない」
遥「……でも、優しくしたい理由が、自分のためでもあるって分かったら。これから誰かを助けるとき、相手のことを考えてるのか、自分のことしか考えてないのか、分からなくなりそう」
蓮司「分からないときもあるんじゃない。自分の気持ちって、いつでも正確に分かるわけじゃないし」
日下部「だから、理由だけで判断しない。実際に相手の意思を尊重できているか。断られたときに引けるか。感謝されなくても、相手の選択を認められるか。行動の方も見る」
蓮司「自分の中身を隅から隅まで調べて、純度百パーセントの善意を探すより、そっちの方が現実的だろ」
遥「純度百パーセント……」
蓮司「そんなものがあったら、俺が見てみたいわ。たぶん、本人も途中で飽きるぞ」
遥「……蓮司は、誰かに頼られなくなっても平気なの?」
蓮司「平気じゃないときもあるよ」
遥は意外そうに顔を上げた。
蓮司「俺だって、頼られたら嬉しいし、こいつには俺が必要なんだなって思えば、ちょっと気分がいい。別のやつに相談するようになったら、俺じゃ駄目だったのかって考えることもある」
日下部「珍しく素直だな」
蓮司「うるさい。俺は自分のことを聖人だと思ってないんでね」
軽く笑ってから、蓮司は続けた。
蓮司「でも、相手が俺以外を頼るようになったことと、俺がそいつにしてきたことが全部無駄だったって話は、別だろ。俺を必要としてほしい気持ちがあるからって、相手のために考えたことまで嘘になるわけじゃない」
遥「……うん」
蓮司「あと、必要とされたい気持ちそのものを、そんなに悪者にしなくていいと思うけどな。誰かと関わるとき、自分もそこから何かを受け取ってる。安心とか、嬉しさとか、自分の居場所がある感じとか。それを全部なかったことにして『私は相手のためだけにやりました』って言い張る方が、よっぽど自分に嘘ついてる場合もある」
日下部「自分の欲求を認めることは、相手にその欲求を満たす義務があると主張することとは違う。その区別ができていれば、少なくとも、欲求があるという理由だけで自分を責める必要はない」
遥はもう一度、相談文を読み直した。
「自分がいなくても平気そうだと、少し腹が立つこともあります」
その部分で目が止まる。
遥「……相手が自分を必要としてないって分かると、今まで自分がしてきたことって、何だったんだろうって思うのかな」
蓮司「それもあるだろうな。自分が思ってたほど相手にとって大きな存在じゃなかった、って感じるとか」
日下部「でも、相手にとって大きな存在であることだけが、誰かに何かをする理由じゃない」
遥「……そうだな」
言いながら、遥は自分の指先を見た。
誰かの役に立てたからといって、その人が自分を大切にしてくれるとは限らない。
何かをしてあげたからといって、自分がそこにいていい理由が増えるわけでもない。
そのことは、知っている気がした。
知っているのに、どうしてそんなに当たり前のこととして受け入れられるのか、遥にはよく分からなかった。
蓮司「遥はどう思う?」
遥「……何が?」
蓮司「自分のためでも、人に優しくしていいのかって話」
遥はすぐには答えなかった。
遥「……相手が嫌がってないなら、いいんじゃないかな。自分も嬉しいなら、それで……」
言いかけて、少し言葉を探す。
遥「でも、相手が嫌がってるのに、自分が必要とされたいから続けるのは違うと思う。相手がもういらないって言ってるなら、やめるしかないし」
日下部「そうだな」
遥「……自分が寂しいからって、相手に寂しくないふりをさせるのも違うと思う」
蓮司「お、いいこと言うじゃん」
遥「いや……別に」
蓮司「褒めたらすぐ引っ込めるなって」
遥は困ったように笑った。
自分が同じことをできるかは、分からない。
それでも、誰かに向けてなら、こうして言葉にできることがある。
日下部「自分の優しさを疑うこと自体は、悪くないと思う。ただ、疑った結果、何もかも偽物だったと決めつける必要はない」
蓮司「自分の中に、相手のためじゃない気持ちがあった。それで終わりじゃなくて、その気持ちをどうするかまで考えればいい。自分の欲求を認めるのと、欲求のままに相手を動かそうとするのは違うんだから」
遥「……優しくする理由って、一つじゃなくてもいいんだと思う」
二人が遥を見た。
遥は少しだけ視線を泳がせ、それでも今度は言葉を引っ込めなかった。
遥「相手のためでも、自分のためでも。どっちかしかなかったことにしなくても、いいんじゃないかな」
🗝 三人からのことば
遥
「誰かのためにしたことを、自分も嬉しかったからって理由で、全部なかったことにしなくてもいいと思う。……相手のことを考えてた時間まで、嘘だったことにはならないから」
蓮司
「自分が必要とされたいなら、まずはそう思ってる自分を認めればいい。問題は、その気持ちを満たすために相手の自由を奪うかどうかだろ。自分の欲求があることと、その欲求を相手に押しつけることは別の話」
日下部
「善意だけで行動できる人間でいようとするより、自分の中にある欲求も把握したうえで、相手の意思を尊重できる人間でいる方が現実的だと思う。自分の動機を疑うなら、過去を全部否定するためじゃなく、これからの行動を考えるために疑えばいい」
放課後、相談室を出た遥は、廊下の向こうから聞こえてきた声に足を止めた。
「助かった。ありがとな」
「別に。俺がやりたかっただけだし」
誰かが誰かに礼を言って、それを受けた方が、少し照れくさそうに笑っていた。
遥はその二人を見て、すぐに視線を落とした。
自分がやりたかっただけ。
その言い方は、少し不思議だった。
誰かのために何かをするなら、自分の都合を混ぜてはいけない。そういう決まりがあるわけではないのだろう。
それでも遥は、誰かに何かをしてもらうとき、相手に負担をかけたのではないかと先に考える。相手が自分のために時間を使ったなら、その分、自分も何かを返さなければいけないような気がする。
相手が本当にやりたかったのかどうかなんて、確かめる方法もないのに。
「遥、帰るぞ」
少し先で蓮司が呼んだ。
「……うん」
遥は歩き出した。
自分が誰かに何かをしてあげたとして、その人が喜んでくれたら嬉しいと思うのだろうか。
たぶん、思う。
頼られたら、嬉しいのかもしれない。
でも、その人がもう自分を必要としなくなったら。
そのとき自分に残るものが、何もないような気がする。
遥はその考えを、いつものように打ち消そうとした。
自分のことなんだから、別にどうでもいい。
そう片づけかけて、ほんの少しだけ引っかかった。
誰かが自分を必要としてくれるかどうかと、自分がその人のために何かをしたこと。
本当は、同じものではないのかもしれない。
その違いを自分のこととして考えるのは、まだ難しかった。
遥は結局、何も言わなかった。
ただ、その二つを、今すぐ一緒に捨ててしまうことだけはしなかった。
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うーん、この話、ずしんときたなあ……。 「相手のため」と「自分のため」を切り分けられなくて、過去の行動まで全部偽物に感じてしまうMさんの気持ち、すごく分かる。でも蓮司の「一個でも自分のための理由が見つかったら全部偽物になるのか」って問いが、その呪いをそっとほどいてくれる感じがした。 日下部の「欲求があることと、その欲求を相手に押しつけることは別」という線引きも、すごく現実的でいい。完全な善意なんてないって認めた上で、それでも行動を選んでいける——そんな大人の考え方に、自分も少し救われた気がする。 遥が最後に「今すぐ一緒に捨ててしまうことだけはしなかった」という微かな抵抗。そこに優しさの回復の兆しが見えた気がして、ほっとした。この三人の言葉の選び方、めちゃくちゃ丁寧だなあ。