真田夫妻と別れた後二人の車は鎌倉を目指して走り始めた。
「夕飯はどうしようか? どこかで食べて行く?」
「さっきケーキをいただいたからまだあまりお腹が空いていないかも」
「そうだな…….」
俊は何かを考えている様子だ。
「良かったらうちに寄っていかないか?」
「え?」
「カフェの大体の見積もりが出来上がったから寄ってくれれば見せられるかなって」
雪子は急な誘いに戸惑っていた。まさか今日俊の家に寄るとや想像もしていなかったからだ。
しかし家に帰っても一人の雪子は特に急いで帰る必要もない。
「取って食ったりはしないから」
俊の言葉に雪子は思わずフフッと笑う。
「だったら寄ろうかな?」
「そうこなくちゃ! なんか軽くつまみでも買って帰って一杯やりながら打ち合わせしようか?」
「うん。なんか私も飲みたい気分だったの。だって今日は鬼退治が出来たんですもの」
「鬼退治か! 上手い事を言うなぁ。じゃあ今夜は祝賀会か」
そこで二人は同時に笑った。
鎌倉へ戻ると二人は地元の高級スーパーへ寄って帰る事にした。
そのスーパーには美味しい総菜や洒落たオードブルが沢山置いてある。
店に入ると俊がカゴを持ち雪子はその横をついて行く。そしてそれぞれが食べたいオードブルをいくつか選んだ。その他にもチーズやフランスパン、そしてぶどうも買った。
酒コーナーへ行くと俊はワインを一本選んでカゴに入れる。会計は全て俊がしてくれた。
そして俊が店員から袋を受け取り二人は駐車場へ向かう。
雪子は息子以外の男性とスーパーへ来たのは20年ぶりだった。
いつもは一人で来る店に二人で来るというのは不思議な感覚だ。二人で来る事に慣れていないせいかどこかぎこちなくなってしまう。
(男性と一緒に来ると会計もしてくれるし荷物も持ってくれるので至れり尽くせりで凄く楽だわ)
雪子は密かに感動のようなものを覚える。そしてシンデレラにでもなったような気分だ。
その後二人は車へ戻り俊の家へ向かった。
俊の自宅は雪子の家の傍の坂道を上り切ったところで左折し、そこをずっと進んだ一番奥の角地にあった。
俊の家はモダンな片流れ屋根の家で壁はすべてシックなダークブラウンの木材で覆われている。
敷地内に植えられた落葉樹がちょうど紅葉していて綺麗だ。玄関脇にあるナナカマドの樹は真っ赤に染まっている。
落葉樹に囲まれた家はまるで別荘のようで素敵だった。
俊はアンティークレンガが敷き詰められた駐車スペースへ車を停めるとエンジンを切った。
そして俊は車を降りると荷物を手にし玄関の鍵を開けた。
「どうぞ」
「おじゃまします」
雪子が玄関へ入った瞬間室内には癒される木の香りがした。
(本当に別荘みたい)
雪子はそう思。
「こっちがリビングだよ」
リビングはかなり広かった。
天井は吹き抜けでとても解放感があり部屋の隅には使い勝手が良さそうなキッチンとダイニングスペースがある。
庭に面した窓は天井近くまでガラス張りで昼間は日の光が燦々と降り注ぐだろう。
今は暗くて外が見えないがガーデンライトに照らされた部分には落葉樹が見える。きっと昼間には美しい紅葉が見えるのだろう。
リビングの外はウッドデッキでガーデンテーブルセットが置いてあった。
設計上ウッドデッキは隣家から見えないようになっているのでまさにプライベートスペースだ。
晴れた日にこのデッキで食事をしたらとても気持ちが良さそうだ。
リビングの壁一面には作り付けの棚があり中心部には鉱物類や化石が、そしてその他の棚には鉱物の専門書が並んでいる。
そして現代アートの絵画やオブジェも飾られていた。
さすが飲食店をプロデュースをしているだけありディスプレイのセンスは見事だった。
雪子は棚に近づくと鉱物類を一つ一つ眺めた。そしてその中にサンゴの化石を見つけて思わず叫ぶ。
「うわぁ見事なサンゴの化石! これはどちらのものですか?」
雪子の言葉に俊は「オッ!」という顔をしてから言った。
「さすが地学の教師のお嬢さんだ。それは丹沢のだよ」
「へぇー、欠けている所も全くなくて完璧な状態!」
「その右隣りにはオウムガイの化石もあるよ」
「あっ、本当! こんなに大きいの初めて見ました。収集しているのは聞いていたけれどこんなに本格的だとは思わなかったわ」
雪子が興奮したように言ったので俊は思わず微笑んだ。
鉱物や化石についての会話ができる女性とは今まで付き合った事がない。俊は雪子とそんな話も出来るのだと知り嬉しくなった。
鉱物類を一通り見終わった雪子は俊が食事の準備をしている事に気付いた。
「私がやります」
雪子は慌ててキッチンへ行くと食べ物を盛り付ける係を買って出た。
「ありがとう。お皿はこの棚に入っているから自由に使って!」
俊はそう言うと、窓のカーテンを閉めてからオーディオの前に行き軽快なジャズを流し始めた。
リビングにはくつろげそうなグレーのカウチソファが置いてあった。ゆったりしたサイズなのでおそらく外国製だろう。
その他にはテレビボードと少し大きめの観葉植物が3鉢あるだけでホテルのようにシンプルだ。
ダイニングには無垢材の大きなダイニングテーブルと椅子が6脚。
広々としたテーブルは使い勝手が良さそうだ。
雪子は手際よくオードブルを盛り付けていきカウンターの上へ並べる。それを俊がリビングテーブルへ運んだ。今夜はソファーでお酒を楽しむようだ。
そしてお酒とグラスも用意すると今夜の晩餐の準備が整った。
コメント
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鬼退治👹後の俊さんのご自宅での祝賀会🥂🍷🧀 初めてのご訪問で雪子さんも緊張気味💦それ以上に素敵なお部屋と鉱物のディスプレイにワクワクな雪子さん😊🎉 カフェの見積もりの口実もあってすんなりお邪魔しちゃったね😊💕 さぁこれから2人の関係も👨❤️💋👨❤️🫶進展しちゃいそうな予感が…o(^▽^)o
雪子はそう思。→雪子はそう思う。
↓らびぽろちゃん、うんうん(*-ω-) 俊さん宅への、初のご訪問🏡 ドキドキしちゃうね~❤️( 〃▽〃) 俊さんのカフェプランも楽しみだし☕️✨ デパートの鬼退治も 完了‼️👹 色々と吹っ切れてスッキリしたから、 二人の仲の 更なる進展も....💏♥️♥️♥️🤭