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教室の空気は重く、机を囲む視線が一斉に遥を貫く。
「じゃあ今度は学校での過去な。誰に、どんなふうにやられたか、全部話せ」
紙に書かれた文字が指示のように揺れ、クラスの視線は容赦なく追い立てる。
息を飲み、遥は小さく肩を震わせながら答えを絞り出す。
「……男子……体育のとき……ロッカーに押し込まれて……」
「おお、開始早々かw 痛かっただろ、どんなふうに?」
「手で……押さえられて……蹴られて……」
「へえ〜、声出したんだろ? 仲間呼んだ?」
「……いや……一人……だから……」
笑い声が湧く。誰かが手を叩き、誰かが口笛を鳴らす。
「一人で耐えたとか、かわいそう〜」
声を震わせながらも、遥は続ける。
「女子も……廊下で……無視とか、机に落書きとか……」
「うわ、精神的攻撃も混ぜてきたか。点数上げるためか?」
「いや……点数なんか……」
「でも俺らは面白いから聞きたいんだよ。 細かく言え」
遥は俯き、指先を机に突っ込みながら言葉を絞り出す。
「……名前は……言えない……でも、蹴ったり、物投げたり……仲間もいた……」
「仲間とセットとか最高。 で、どうなった?」
「……泣いた……怒られても……誰も助けてくれなかった……」
ざわつきと嘲笑が広がる。誰かが「そりゃあ弱すぎ」と付け加え、別の声が「もっと生々しく!」と煽る。
遥は声を抑えながら、胸の奥で冷たいものを感じる。
(言わなきゃ、やめてくれない……日下部を、こんな目に遭わせたくない……)
さらに教師が控えめに前に立ち、「保健室で待つか? 逃げたいなら」と囁くが、その表情は観察の色が濃く、逃げられない空気を纏う。
逃げ場を示すようで、実は全て加担しているのだ。
「さあ、次は……一番屈辱的だったやつを順番に」
「……体育祭のとき……みんなの前で……服をめくられて……笑われて……」
「おお、見せ物にされたわけか。 泣いたんだろ?」
「……はい……でも……誰も止めない……」
クラスは手を叩き、口笛を鳴らし、笑う。
遥の心は、痛みと羞恥で引き裂かれる。
しかし声を出さざるを得ない。黙れば、日下部に手が伸びる――その恐怖が全てを支配している。
「じゃあ、もっと細かく……何されたか、順番に言えよ」
震える指先が机に突っ込み、言葉がしばらく途切れる。
「……蹴られた……物投げられた……机の上に乗せられた……」
「泣いた……でも助けてくれる人はいなかった……」
誰もが楽しむように笑い、遥はただ言葉を吐き出すしかない。
心の奥では、自分の体験が娯楽のネタに変えられる感覚が押し寄せる。
しかし日下部のことを考えると、声を止めることも、嘘をつくこともできない。
(……これ以上、あいつに関わらせたくない……)
自分の痛みを曝け出すことで、遥は日下部を守る――それが、たった一つ残された行動だった。