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翌日。
今村は会社の自室で、浮かない顔のまま窓の外をぼんやりと眺めていた。
そこへ、西園寺コンチェルンの御曹司・西園寺司が姿を見せた。
「昨日はどうだった?」
司は、今村が自ら妻の後輩を“骨抜きにして悪巧みを止めてみせる”と申し出たため、その結果を聞きに来たのだった。
「簡単でしたよ。あっという間でした」
「さすがだな。で、この後は?」
「放置ですね。プライドの高い勘違い女ほど、放置が一番効きます」
「なるほど……。でも昨日は本当に助かったよ。間一髪だったからね」
「嫌な予感がしたので、直接書斎に向かって正解でした」
昨日は司の家でホームパーティーが開かれていた。
妻の後輩・梨花も参加していたが、彼女は先輩夫婦の仲を裂こうと司に色仕掛けを仕掛けようとしていた。
その瞬間を、今村が間一髪で止めたのだ。
「でも、恨まれないように気を付けろよ。君だって、大事な人がいるんだろう?」
「えっ? 社長、何を言ってるんですか。いませんよ、そんな人」
「ははっ、今はいなくても、いずれ現れるさ……本気になる女性がね。僕もそうだったから」
「社長は奥さんに一目惚れだったんでしょう?」
「まあね。でも、その時になれば君にもきっと分かるさ。じゃあ、財前重工に顔を出してくるよ」
「行ってらっしゃい」
司の後ろ姿を見送りながら、今村はふと考え込んだ。
「俺に本気の女? まさか……ね」
そう呟くと、思わずふっと笑みが漏れた。
午後。
経営会議を終えた今村は、ポケットから携帯を取り出し、着信履歴を確認した。
すると、見慣れない番号がいくつも並んでいる。
(ん? どこからだ?)
気になって自室に戻り、パソコンで番号を検索すると、それは港区の高輪北消防署のものだった。
「なぜ消防署から?」
留守電を設定していなかったため、伝言は残っていない。
嫌な予感がした今村は、折り返し電話をかけてみることにした。
呼び出し音が鳴ると、すぐに男性の声が応答した。
「高輪北消防署です」
「すみません、私、今村と申しますが、先ほど何度か着信があったようなので……」
「ああ、わざわざ折り返しありがとうございます。失礼ですが、新藤敦子さんとはお知り合いでしょうか?」
突然、敦子の名前が出てきたので、今村は息を呑んだ。
「え、ええ……」
「実は、新藤さんが道で倒れられて意識を失い、救急搬送されました。ご家族の手掛かりがなかったため、直近の履歴の中で着信回数が最も多かった番号へご連絡いたしました」
その言葉に、今村は急にうろたえた。
「敦子は……敦子は大丈夫なんですか?」
「今から搬送された病院名をお伝えしますので――」
「行きます! すぐ行きます!」
病院名を聞き終えると、今村は秘書に叫ぶように言った。
「緊急の用事ができた! 今日はもう帰るから……」
「承知しました」
秘書は今村の様子からただならぬ事態を察し、深く頭を下げた。
地下駐車場へ向かった今村は、手が小刻みに震え車のキーを落としてしまう。それを、舌打ちしながら拾い上げた。
そして車に乗り込むと、急発進させた。
大学病院の救命センターに到着すると、今村は受付に駆け寄る。
「新藤敦子の知り合いです! 敦子は……大丈夫なんでしょうか?」
受付の女性は、必死の形相の今村を見て、少し驚いた様子でこう答えた。
「二番の処置室にいらっしゃいますので、どうぞ」
今村は教えられた部屋へ急いだ。
廊下には、救急搬送された他の患者の家族が涙をこらえながら立っている。
その光景に胸がざわつく。
(まさか……敦子も?)
不安を抱えながら処置室へ向かうと、看護師が出てきた。
敦子の知人だと告げると、すぐに中へ通された。
「敦子!」
部屋に入ると、顔色の悪い敦子が横たわっていた。
しかし、目は覚めていたようで、すぐに今村を見た。
「あ……トシ!」
その声を聞いた瞬間、今村は心底ほっとした。
「よかった。どうした? 道で倒れたって……何か悪い病気なのか?」
「違うわ。でも、もう大丈夫よ」
「大丈夫なわけないだろう。まだ顔色が悪い」
敦子は困ったように微笑んだ。
「本当に大丈夫だから、心配しないで」
「じゃあ、なぜ倒れた?」
「疲労がたまってたのよ」
「疲労? じゃあ過労か?」
「ううん、そうじゃなくて……」
その時、医師が現れた。
「この方ですか?」
「……そうです」
医師は今村に向き直り、穏やかに告げた。
「彼女は現在妊娠二ヶ月です。妊娠初期なのに無理をしすぎたようですね。暑さと疲労で貧血を起こしたのでしょう」
「…………」
「幸い赤ちゃんに異常はありません。あと一時間ほどで帰れますが、帰宅後は無理をさせないようお願いします。では」
医師が部屋を出て行くと、敦子は頭を下げた。
しかし今村は棒立ちのまま、言葉を失っていた。
(俺の……子?)
心当たりはあった。
妊娠二ヶ月――ということは、あの日だ。
敦子の誕生日を祝った夜。
なぜか避妊をしなかったあの日……。
二人の間で避妊をしなかったのは、あの夜が最初で最後だった。
敦子は申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい……安全日だと思ってたのに……。でも、少しずれてたみたい」
「……」
「あなたは心配しないで。私、ひとりで育てるから」
「……」
「ちょうど、もうひとり子どもが欲しかったのよ。真綾も兄弟を欲しがってたし……。だから、本当にひとりで大丈夫だから……」
勝手に結論を出す敦子の言葉に、今村は胸の奥がざわついた。
そして、普段は声を荒げることのない彼が、初めて感情を爆発させた。
「大丈夫なわけないだろう! 勝手にひとりで決めるな! 大事なことなんだ」
敦子の表情がみるみる泣き顔に変わる。
「だって……あなた言ったじゃない。ひとりの女には決められないって……結婚なんて考えられないって……。だから、私はひとりでも大丈夫だから……」
今村は何も言えなかった。
今すぐ答えを出せるはずがない。
だが、今優先すべきことだけは分かっていた。
「真綾ちゃんだっけ? そろそろお迎えの時間だろ?」
敦子はハッとして時計を見る。
今村の言う通り、保育園のお迎えの時刻が迫っていた。
「高輪ドリーム保育園……だったよね? 俺が迎えに行ってくるよ」
敦子は驚いたように目を見開いた。
「いいの? あなた、子ども苦手でしょう?」
「苦手じゃないよ。今まで特に接点がなかっただけだ」
「……でも、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。点滴が終わるまでには戻る。終わったら待っててくれ。送っていくから」
「うん……ありがとう。保育園に電話しておくね」
「頼むよ」
病室を出ていく今村の背中を、敦子は愛おしそうに見つめ続けた。
#大人の恋愛
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コメント
13件

なるほど😆今村さん、もう覚悟を決めましょう。
救急車で運ばれたとなると何があったのか心配になるよね。 赤ちゃんが出来たのなら責任はとらないとだね。 今村さん、年貢の納め時ですね😊
シンママの敦子さん💖梨花の上書き消毒に最初に電話してましたよね😏 避妊しなかったのが一回きりで運命的な縁結びベビー👶💕敦子さんの本心を伝えたら激昂の今村さんの返し🙌 お腹の子のパパになるなら自分の身辺もしっかり片付けて他の女の影は無くす事‼️ パパになるだけでなく敦子さんと2人の子だけを愛する事‼️ しっかりその覚悟を持って敦子さんに伝えてね💏