TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

キッチンから、だしの匂いがゆっくり広がってくる。


真白はソファに座り、膝の上にブランケットをのせたまま、その匂いを吸い込んだ。


「いい匂い」

「そば」

「やっぱり」

「年末だから」

「理由、固定されてきたね」

「今日は正当」


鍋の中で湯が静かに揺れている。

テレビでは、例年通りの番組が流れていた。


にぎやかな音と、この部屋の静けさが、少しだけずれている。


「外、寒そう」

「見なくてもわかる」

「なんとなく」

「出る?」

「出ない」


即答だった。


「正解」


アレクシスは火を弱め、真白の隣に戻ってくる。


ブランケットを二人で分けるのは、もう自然になっていた。


「そば、あとどれくらい?」

「もう少し」

「待てる」

「珍しい」

「今日は、待つ日」

「そういう日?」

「そういう気分」


画面の向こうで、カウントダウンの準備が進んでいる。

二人はそれを横目で見るだけだった。


「ねえ」

「なに」

「今年さ」

「うん」

「悪くなかった」

「それはよかった」

「アレクがいたから」

「……理由としては強い」

「認めて」

「認める」


真白は、ブランケットの中で少し体を寄せる。

肩が触れ、腕が重なる。


「来年も」

「うん」

「同じ感じでいい」

「それが一番、難しい」

「でも、できてる」

「今のところは」


キッチンから、タイマーの音が鳴る。


「あ」

「できた」


二人で立ち上がり、そばを器に盛る。

湯気が立ち、眼鏡が少し曇った。


「年越しそばって」

「うん」

「途中で切れるとだめなんだよね」

「縁起が悪い」

「じゃあ」


真白は箸を持ち、少し考える。


「一気にいく?」

「無理しなくていい」

「……じゃあ、ゆっくり」

「それで」


向かい合って座り、そばをすする音が重なる。

静かな音が、部屋に馴染む。


「ねえ」

「まだある?」

「最後」

「どうぞ」

「来年も、一緒に年越そう」


アレクシスは、箸を止めて、真白を見る。


「約束?」

「ううん」

「じゃあ」

「希望」

「それなら」


アレクシスは少し笑う。


「叶えやすい」


テレビの音が、少し大きくなる。

年が、もうすぐ変わる。


「そろそろ」

「うん」


ブランケットの下で、指先が絡む。


「……今年も、ありがとう」

「こちらこそ」


カウントが始まる少し前、

二人は何も言わず、肩を寄せた。


大きな音は、いらない。

この距離で、十分だった。

ひとつ屋根の下、コーヒーの香り。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚