テラーノベル
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#読み切り
ドアが開く。
「……失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて座る。
今日は少し落ち着かない。
「俺、教室でペン落とすだけで焦るんです」
日下部は目を向ける。
「……ペン?」
「はい」
少し早口になる。
「シャーペン落とした音とかで、みんなに見られた気がして」
視線が落ちる。
「拾うときも、“変な動きしてないかな”とか考えて」
短く息を吐く。
「たぶん誰も気にしてないのに、めっちゃ恥ずかしくなるんです」
「“注目された”感覚が強すぎるな」
日下部は言う。
生徒は小さく頷く。
「……はい」
「で、そのあと頭の中でreplayする」
生徒は止まる。
「……します」
「“あの音デカかったかも”とか。“変な拾い方したかも”とか」
生徒は苦笑する。
「めちゃくちゃあります」
日下部は少し間を置く。
「でも実際、周りは数秒で忘れてる」
短く言う。
「分かってるんですけど、自分だけ残るんです」
「残るのは、“失敗”として保存してるから」
日下部は言う。
生徒は黙る。
「小さいことなのに、“恥”扱いしてる」
「……確かに」
「あと」
「はい」
「静かな教室だと、余計そうなる」
短く言う。
「音一個でも浮くから」
生徒は少し顔を上げる。
「それです。テスト前とか最悪です」
「でも、みんな同じようなミスしてる」
日下部は続ける。
「ただ、自分のだけ異常に覚えてる」
生徒は少し考える。
「じゃあ、どうしたらいいですか」
日下部は少しだけ間を置く。
「恥ずかしくなったあと、“終わり”を入れる」
「終わり?」
「拾ったら終わり」
短く言う。
「頭の中で続きをやらない」
生徒は苦笑する。
「……勝手に延長戦してました」
「一人反省会な」
短く返る。
生徒は少し笑う。
立ち上がる。
ドアの前で止まる。
「ペン落とすだけで疲れてました」
「気にする力が強すぎるんだろうな」
短く返る。
ドアが閉まる。
小さい失敗ほど、自分だけ何回も見返してしまう。
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