テラーノベル
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さんちゃん
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昴のスマートフォンが、夜の静寂を破った。
画面に映ったメールの差出人は、大手レーベルの担当者。
「新作アルバムへの作曲依頼。詳細は打ち合わせで」
指が震え、心臓が一瞬跳ねる。
――ついに……外の世界が、俺に手を伸ばしてきた。
練習室に入ると、翔がピアノの前に座っていた。
「……何だ、その顔」
無愛想ながら、どこか柔らかい声。昴はメールを見せると、翔はゆっくり顔を上げた。
「ふん……悪くない」
一瞬ほっとする。しかしすぐに、瞳の奥に微かな影が走る。
「でも……」
言葉は途切れ、肩がわずかに震える。翔の指先も、鍵盤に触れたまま止まった。
昴は息を呑む。
――何か、引っかかっている。
翔の笑顔は表面だけで、心の奥に不安が潜んでいることを、昴は感じ取った。
「……昴の曲を、他人に勝手に弾かせるつもりはない」
低く、静かで、でも絶対の響き。
その声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「……俺がそばにいるときだけ、弾かせろ」
短い言葉に、独占欲と守りたい気持ちが混ざっている。
昴は自然と頷くしかなかった。二人だけで音を作っていた日々を思い返す。
――外界の雑音が、俺たちの完璧な世界を乱すかもしれない。
深夜、二人はピアノの前に向かい合った。
昴は譜面を開き、新しい旋律を生み出そうと指を動かす。
翔もまた、目の奥にわずかな影を残しながら、音を繋いでいく。
互いの呼吸と指先だけが空間を満たす。
外の世界の話題が何度も頭をよぎるが、音が鳴り出すと、すべてがかき消される。
――二人だけの世界に戻る瞬間。
演奏を終えた後、翔が静かに言った。
「……俺以外の誰かのために、昴の音を使わせるつもりはない」
その声に、胸が甘く締め付けられる。危うく、重い高揚。
夜が深く、練習室の窓から街灯が淡く差し込む。
昴は譜面を閉じ、翔の視線を受け止める。
外界からの雑音が入り込むたび、二人の世界は少しずつ揺れる。
でも、指先と旋律で繋がる二人の絆は、確かに存在していた。
――音があれば、誰も入れない。
昴は胸の奥でそう思い、指先の震えを押さえた。
翔の手が鍵盤の上で止まったまま、二人だけの静かな夜が続く。
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