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#独占欲
新しい記録帳が、観測塔に置かれた。
題名はまだ決まっていない。
ただ、暫定的にこう呼ばれている。
――未観測星記録。
「また増えました」
若い学官が言う。
「推定、三十一」
机の向こうで、年長の学官がため息をつく。
「数える意味があるのか?」
「存在は確認できます」
「だが色が見えない」
「はい」
記録できない星。
だが確実に増えている。
王都の夜空は、少しずつ変わっていた。
観測塔の窓から見える王宮のバルコニー。
そこに二つの影。
王太子と王妃。
無色の王妃。
そして金色の王太子。
「……あの二人のせいだと思うか?」
若い学官が聞く。
「可能性はある」
「でも国力は安定してます」
「だから問題にできない」
年長の学官はペンを置く。
「学問としては困るがな」
そのとき、別の学官が駆け込む。
「報告!」
「何だ」
「西方観測所からです!」
紙が渡される。
年長の学官は目を通す。
眉がゆっくり上がる。
「……嘘だろ」
「どうしました」
「西方でも確認された」
「無色星?」
「いや」
紙を机に置く。
「色のない感情反応」
沈黙。
「……そんなもの」
「存在しないはずだ」
だが記録はある。
ある夫婦。
発色なし。
だが星が安定している。
「まさか」
若い学官が呟く。
「王宮だけじゃない?」
もしそうなら。
理論が変わる。
愛の定義が変わる。
王国の制度そのものが揺らぐ。
年長の学官は窓を見る。
夜空。
透明な星は見えない。
だが確かにある。
「……広がっている」
王宮の上。
バルコニー。
エリュネは空を見ていた。
「また増えています」
王太子は苦笑する。
「学官が頭を抱えるな」
「でしょうね」
「責任を取ってもらうぞ」
「私ですか?」
「君しかいない」
エリュネは少し考える。
「ですが」
「?」
「これは私の星ではありません」
「なら誰のだ」
彼女は空を見続ける。
「選んだ人たちの星です」
色にならない愛。
観測されない意志。
それは静かに広がる。
王太子は腕を組む。
「面倒な時代になる」
「そうですね」
「制度を全部作り直さないといけない」
「大変です」
彼は少し笑う。
「だが」
夜空を見る。
「面白い」
エリュネは黙っている。
空のどこかで、また星が増えた。
誰にも見えない光。
だが確実に存在する。
そしてその光は、王国の外側へと広がり始めていた。