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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
最初から、決まっていた。
「今日はあいつがやる日ね」
「昨日あの子だったし、順番」
「文句言わないでできるでしょ? 得意じゃん」
教室の空気が、そういう役割分担で回っている日があった。
誰が机を運ぶか、誰が掃除を押し付けられるか、誰が笑われるか。
それは当番表みたいに自然に、誰も疑わず決まる。
その中で、遥の名前が呼ばれるときは、 「手伝い」じゃなくて「処理」に近かった。
「遥、ちょっと来い」
呼ばれて、行く。
行かない選択肢は、ない。
廊下に出ると、数人が待っている。
楽しそうでも怒っているわけでもない、ただ退屈を潰す顔。
「さっきさ、体育館で転んだやついたじゃん」
「お前のせいってことにするから」
「え、なんでって顔すんなよ。調整だろ」
調整。
その言葉が出た瞬間、
もう説明は終わっている。
遥は少しだけ息を吸う。
「……俺、いなかったけど」
「だから?」
「関係ないよね、そこ」
「誰かのせいにしないと話進まないじゃん」
笑い声。
誰も怒鳴らない。
誰も大声を出さない。
それでも、決定は覆らない。
「謝れ」
「……誰に」
「全員に」
言われた通り、遥は視線を下げる。
「……ごめん」
声は小さい。
でも、確かに出した。
すると一人が笑って、遥の肩を軽く押した。
「小さ。やる気あんの?」
「聞こえないって」
「ほらもう一回」
押されて、壁に背中が当たる。
強くはない。
けれど、逃げ場がない距離。
「ちゃんとやれよ。お前さ、こういうときくらい役に立て」
役に立つ。
その言葉は、
人としての役割じゃない意味で使われている。
遥は喉を動かす。
「……ごめん」
少しだけ声を上げる。
「誰のせいで迷惑かかったか言え」
「俺のせいで、迷惑かけた」
「何をした?」
「……転ばせた」
「してないよな?」
「してない」
「じゃあ?」
「……俺のせいにしたほうが、楽だから」
一瞬だけ、空気が止まる。
誰かが吹き出す。
「なにそれ」
「理解早いじゃん」
「最初からそう言えよ」
肩をまた押される。
今度は少し強くて、バランスが崩れる。
笑い声が重なる。
遥は、何も言い返さない。
言い返したところで、
状況が良くなることは一度もなかった。
それでも、今日は少しだけ違った。
壁に手をつきながら、遥は言う。
「……これでいい?」
「なにが」
「役に立ってる?」
誰かが眉を上げる。
「は?」
「……ちゃんとやってる?」
その言葉は、
抵抗でも反抗でもない。
ただ、
確認だった。
正しく処理されているか。
自分が期待通りの位置にいるか。
数秒の沈黙のあと、
一人が笑って言う。
「うん。完璧」
「今日も助かるわ」
「ほんと便利」
背中を軽く蹴られる。
強くはない。
でも、遊びの延長みたいに繰り返される。
遥は倒れないように足を踏ん張る。
そのまま、もう一度だけ聞く。
「……じゃあ、戻っていい?」
「いいよ」
「次呼ぶまで消えとけ」
「うん」
振り返って歩き出す。
廊下の床を見ながら。
後ろで声がする。
「ほんとさ、あいつ便利だよな」
「文句言わないし」
「空気読めるし」
「最初からああいう役で生まれてきたんじゃね?」
笑い声。
遥は歩きながら思う。
――便利。
――役。
――調整。
言葉が、頭の中で並ぶ。
怒りは出てこない。
悲しみも、薄い。
ただ、
自分が何かの部品として使われている感覚だけが残る。
教室の扉の前で、
一度だけ立ち止まる。
中から笑い声が聞こえる。
普通の、クラスの笑い声。
深く息を吸う。
そして、
何事もなかったみたいに扉を開けて、席に戻る。
誰も何も言わない。
それが一番自然だから。
机に座りながら、遥は考える。
ちゃんとやれた。
間違えなかった。
余計なこと言わなかった。
だから今日も、
大丈夫。
そうやって確認しないと、
自分がどこにいるのか分からなくなるから。
コメント
1件
うおおお…遥の心情が胸にグサグサ刺さった…😭💔 「ちゃんとやれた」「だから今日も大丈夫」って自分に言い聞かせる感じ、読んでて息苦しくなるくらいリアルだった…。 あの「役に立つ」って言葉が褒め言葉じゃなくて“利用価値”の意味で使われてるのがすごく痛かった。 でも最後の確認の台詞、抵抗じゃなくてただの確認ってところに遥の諦念と強さの両方を感じて泣きそうになった…。 続きが気になるし、遥がいつか自由になれる日を願ってる…!!🌸💫