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無名の灯 恋愛編

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無名の灯 恋愛編

35 - 第35話 触れたくて、触れられない

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2025年07月29日

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遥が、少し乱れた息で「……触っていいよ」って言った瞬間、心臓が跳ね上がった。

目の前にいるのは、恋人――のはずだ。


けれど、その声の温度は、どこか諦めたようで。まるで、遥自身が自分を差し出すことに意味なんかないって、決めつけているみたいだった。


「……やめろよ」


やっとの思いで声を絞り出すと、遥が眉をひそめた。


「は? なんで……触っていいって言ってんだろ」


そんな風に言われたら、何も知らないやつなら、たぶん何も考えずにそうする。いや、自分も――もし遥じゃなかったら、もしかしたら流されてたのかもしれない。


けど。


日下部は唇を噛み締めた。


「それ、今のお前の本心じゃないだろ」


遥は睨んできた。でも、その目の奥にあるのは、怒りじゃなかった。

――不安だ。試してる。全部。


(そういうこと……何度もされてきたんだろ)


体に触れることでしか、つながれないと思ってる。

体を渡すことでしか、誰かに価値を見せられないと思ってる。


そんなの、苦しいに決まってる。


でも、それでも――正直に言えば。


日下部は、欲望を感じていた。


遥の乱れた呼吸も、熱っぽい視線も、手の甲に触れた一瞬の柔らかさも。全部、ちゃんと「男」として心をざわつかせる。


(だから、余計にダメなんだよ)


自分が欲望で動いたら、遥は「やっぱりそうだ」って、思ってしまう。

信じていたものが壊れないまま、また傷だけが深くなる。


――壊したくない。


遥の、これまで全部間違ってたかもしれないっていう「一歩目」を、壊したくない。


だから。


「我慢してんの?」


遥の問いは、静かだった。


日下部は、ゆっくり息を吐いて、頷いた。


「……ああ。してる。めっちゃ、してる」


遥の目がわずかに揺れた。


「じゃあ……なんで」


「お前が、無理しないでいてくれるなら……オレは、どれだけでも我慢できる」


それが、優しさだったかは分からない。


ただ、欲しいものを“奪う”んじゃなくて。

遥が“渡そうとしないもの”に手を伸ばさず、“それでも隣に立つ”ことを選んだ。


遥が“渡せる”と思えるまで、自分の欲を抑え、彼の痛みを否定せずにいることを。





※補足ポイント。


日下部は“男”としての反応をしているし、“欲望”も抱いている。


でも、それを遥にぶつけないように必死に堪えている。


それは遥のためでもあるし、日下部自身の“選びたい愛し方”でもある。


「我慢してるのか」と遥が聞くのは、自分に対する“興味”と“信頼の試し”でもある。



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