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放課後の相談室。窓の外では、運動部の声がまだ響いている。

ドアが開いて、赤いマフラーを巻いた女子が入ってきた。頬は冬の空気で赤くなっている。


「……ねえ、恋バナってしていい?」


遥はペンをくるくる回しながら顔を上げた。


「恋バナ? 相談室で?」


「だって誰にも言えないんだもん」


彼女は椅子に座ると、両手で机を挟み込み、少し身を乗り出した。


「……好きな人いるんだ」


「ふーん」


遥は興味なさそうに返す。だが、彼女の目の奥が真剣なのを見て、ペンの動きを止めた。


「でも、その人……たぶん誰かと付き合ってる」


「たぶん?」


「はっきりは知らない。けど、SNSでよく一緒にいる写真上げてるし……。見ちゃうと苦しくなる」


彼女の声は少し震えていた。


遥は視線を窓の外に向け、しばらく黙った。


「……俺も、そういうの見たことある」


「え」


「自分が入れない輪っかに、好きなやつが笑ってんの見るのって……すげぇきつい」


彼の声はいつになく低かった。


彼女は驚いた顔で遥を見たが、すぐに目を伏せた。


「じゃあ、どうしたの?」


「……何もできなかった。結局、俺のことなんて見てないんだって思った」


「それで、諦めたの?」


「うん。でも……今でもたまに思う。もしあのとき、何か言ってたら違ったのかなって」


沈黙が落ちる。彼女は指先で机をとんとん叩きながら、小さな声でつぶやいた。


「……怖いよね。言って嫌われるの」


「怖い。だから俺は言えなかった。……でも」


遥は少しだけ笑った。


「言わないままでも、ちゃんと傷つくんだよな」


彼女はその言葉を聞いて、目を細める。


「じゃあ、どうしたらいいんだろう」


「わかんねぇ。……けど、今のままでもしんどいなら、言って傷つくほうがまだマシかもな」


「マシ……」


「うん。だって、その先に何かあるかもしれないだろ。ゼロよりはマシ」


彼女は深く息を吐き、少し笑った。


「遥ってさ、妙にリアルなんだよね。希望とか夢とか言わないで、マシかどうかって」


「そりゃそうだろ。希望とか夢とか、俺持ってないし」


二人の間に、少しだけ軽い空気が流れた。

彼女は立ち上がり、マフラーを巻き直す。


「……ありがとう。言うかどうかはまだわかんないけど、ここで話せてよかった」


「そっか」


ドアを開けるとき、彼女が振り返って言った。


「遥はさ、自分のこと何もできなかったって言ってたけど……人の背中押すのは、できるんだね」


遥は返事をしなかった。ただ、机の木目をじっと見つめていた。

――押すだけ押して、自分はまだ動けない。

でも、誰かが少しでも軽くなるなら、それでいい。


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