TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

相談室のドアが開いた瞬間から、少女の表情は沈んでいた。 椅子に座るなり、彼女は机の木目を睨むように見つめて、小さな声で言った。


「……私、自分のことが嫌いなんです」


蓮司は片眉を上げる。


「ほう。開口一番それか。潔いな」


「勉強もできないし、友達も少ないし……。鏡見るのも嫌で。全部が嫌いで……でも、どうしていいか分かんない」


「なるほど。で、嫌いな自分をどうしたいんだ?」


「……無くしたいです」


その言葉に、蓮司はふっと笑った。


「だったらまず、“嫌い”って気持ちをちゃんと持ててる自分を認めろよ」


「……え?」


「だってさ。“嫌い”って感情、簡単に湧くもんじゃない。お前は自分をちゃんと見てる証拠だ。見もしないで“私最高!”って言ってる連中よりよっぽどマシだぞ」


少女は一瞬、言葉を失ったように目を見開いた。


「……でも、嫌いなままじゃ苦しいです」


「当たり前だ。だからその苦しさを、“どう変えたいか”に変えるしかない」


蓮司は机に肘をつき、視線をまっすぐ投げる。


「本当はさ、自分が嫌いなやつって“好きになりたい”から苦しいんだよ。完全にどうでもよかったら、悩まねえ」


「……好きに……なりたい」


「そう。だから“嫌い”はスタート地点だ。お前が思ってるほど終わりじゃない」


少女の目に、かすかな光が戻る。


「……そんなふうに考えたこと、なかったです」


「だろ。まあ俺も自分のことはあんまり好きじゃねえけどな」


「……蓮司くんも?」


「そりゃあな。でも、嫌いなとこも全部抱えて“まあこんなもんだろ”って笑っときゃ案外生きられる」


少女は少しの間黙り込んで、それからおずおずと笑った。


「……ちょっとだけ、気持ちが軽くなりました」


「それで十分だ。自分を好きになるのは一生かかる遊びみたいなもんだからな」


帰り際、彼女がドアを閉める直前。

蓮司は小さく呟いた。


「……“嫌い”って言えるやつほど、結局いちばん自分を諦めてねえんだよ」



この作品はいかがでしたか?

33

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚