テラーノベル
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#読み切り
ドアが開く。
「……失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて座る。
すぐには話さない。
しばらくしてから、小さく口を開く。
「なんか、クラス見てると」
日下部は目を向ける。
「みんな楽しそうなんです」
視線が落ちる。
「休み時間とか移動教室とか」
少し間。
「普通に笑ってて」
短く息を吐く。
「自分も話してはいるんですけど、なんか、同じ場所にいるだけって感じで」
日下部は黙って聞く。
「うまく言えないんですけど」
生徒は続ける。
「自分だけ馴染めてない気がするんです。周りは楽しそうに見える」
日下部は言う。
「で、自分だけ違う気がする」
「……はい」
少し沈黙が落ちる。
「その感覚さ」
日下部は椅子にもたれる。
「中高生の相談で結構出る」
生徒は顔を上げる。
「そうなんですか」
「多い」
短く言う。
「でもみんな普通に見えます」
「見せてるからな」
日下部は言う。
生徒は止まる。
「昼休みに一人で不安そうな顔してるやつ、あんま見ないだろ」
「……まあ」
「見せないから」
短く言う。
生徒は黙る。
「人って」
日下部は続ける。
「楽しそうな瞬間だけ見える」
「え」
「クラスで見えるのって、基本ハイライトだ」
短く言う。
生徒は少し考える。
「話してる時、笑ってる時、誰かといる時。逆に」
日下部は言う。
「家帰って落ち込んでる時間とか誰にも見えない」
生徒は黙る。
「だから比較がおかしくなる」
「……あ」
「自分は自分の全部知ってる」
短く言う。
「でも他人は、楽しそうな部分しか見えてない」
生徒は視線を落とす。
「自分だけ馴染めてないんじゃなくて自分だけ裏側まで知ってるのか」
日下部は小さく頷く。
しばらく沈黙。
「あと」
日下部は続ける。
「馴染めてるかどうかって本人が一番分からない」
生徒は顔を上げる。
「どういうことですか」
「馴染んでる人間ほど」
短く言う。
「“馴染めてるかな”なんて考えてない」
生徒は少し笑う。
「確かに」
「考えてる時点で、周り見すぎてる」
生徒は黙る。
立ち上がる。
ドアの前で止まる。
「なんか、自分だけ取り残されてる気がしてました」
「見えてる景色だけで判断すると、そうなりやすい」
短く返る。
ドアが閉まる。
みんな楽しそうに見える日はある。
でも、その“みんな”の中にも、同じことを考えている人は案外いる。
コメント
1件
うわ……すごく沁みました。自分だけ違う気がするって感覚、本当によくわかります。でも「楽しそうな部分しか見えてない」って日下部先生の言葉、刺さりました。あと「考えてる時点で周り見すぎ」も核心ついてて。私もよく1人で不安になるから、この話読んでちょっと楽になりました。ありがとうございます。