テラーノベル
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ドアが開く。
「……失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて座る。
今日はいつもより静かだ。
しばらく机を見たあと、ぽつりと話し始める。
「まだ卒業まであるんですけど」
日下部は目を向ける。
「最近たまに考えるんです」
「何を」
「卒業したら」
少し間。
「誰とも会わなくなりそうだなって」
教室が静かになる。
「今は毎日会うじゃないですか」
生徒は続ける。
「嫌でも顔合わせるし、話す機会もあるし」
視線が落ちる。
「でも卒業したら、わざわざ連絡しないと会わないし」
短く息を吐く。
「たぶん自然に切れる気がして」
日下部は少し考える。
「その想像すると、何が怖い」
生徒は止まる。
「……自分が忘れられることですかね」
少し沈黙。
「みんな新しい友達できて、新しい生活始まって、自分だけ昔のまま取り残される感じがして」
日下部は黙って聞く。
「だから今仲良くしてても、どうせ終わるのかなって考える時あります」
「終わるかもしれないな」
日下部は言う。
生徒は少し驚いた顔をする。
「……え」
「実際、卒業したら会わなくなる関係もある」
短く言う。
生徒は黙る。
「でもな」
日下部は続ける。
「それと、“意味がなかった”は別」
生徒は顔を上げる。
「別なんですか」
「別」
即答する。
「中学で毎日話してたやつと、今も連絡取ってるとは限らない」
「はい」
「でも、その時間が消えるわけじゃない」
短く言う。
生徒は黙る。
「人間関係って」
日下部は続ける。
「ずっと続くかどうかだけで価値決まらない」
生徒は少し考える。
「俺、続かなかったら失敗だと思ってました」
「そう考えると苦しくなる」
短く返る。
しばらく沈黙。
「あと」
日下部は言う。
「卒業前の時期って終わる前提で今を見るようになる」
生徒は頷く。
「あります」
「だから今の関係まで薄く見える」
短く言う。
生徒は視線を落とす。
「まだ終わってないのに」
「そう」
少しだけ教室に静かな空気が流れる。
「卒業したら会わない人もいる」
日下部は続ける。
「たまに連絡来る人もいる。何年後かにまた繋がる人もいる」
生徒は黙る。
「未来は分からない」
短く言う。
「でも、“どうせ終わる”で今を消すのは早い」
生徒は小さく笑った。
「なんか、卒業を先取りしてました」
「まだ在学中だからな」
短く返る。
生徒は立ち上がる。
ドアの前で止まる。
「会わなくなることばっか考えてました」
「今会えてることも見とけ」
短く返る。
ドアが閉まる。
関係がいつか変わることはある。
でも、終わるかもしれない未来だけを見ていると、今ある時間まで薄くなってしまう。
コメント
1件
うわ、すごく沁みました……。卒業前の「どうせ終わる」感覚、めちゃくちゃわかります。日下部先生の「終わるかもしれないけど、意味がなかったことにはならない」って言葉が刺さりました。未来を心配するあまり、今を薄くしてしまうのは確かに早いですよね。静かな教室の空気と、小さな間の取り方がリアルで、読んでいて胸がギュッとなりました。
#読み切り