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「……『最強推し四天王様』…………ねぇ……」
白山通り沿いにある自宅マンションに向かいながら、賢はポツリと独りごちる。
『総長』こと坂口志絵の言う四人のOBは、彼も尊敬する方々だ。
京阪OBの魚谷は、冷静沈着かつ鉄人と呼ばれた名遊撃手。
布井は身体能力が群を抜いて高い外野手で、現役引退後も身体を鍛え上げている超人。
ピッチャーだった才見は、シュッとした投球フォームから投げ放たれるボールは多彩で、昨年のBWCでは日本代表のピッチングコーチも務め、賢が同じ投手として尊敬している一人。
ヨグルトOBの『ブッチ』こと平渕は、俊足で黙々と野球に打ち込む武士のような選手、外見はワイルドダンディな色男で、引退後はファッション雑誌でモデルも務めた事がある。
四人とも、メインは野球解説者として活動しているものの、時折トーク番組にも出演して、今も人気が高い。
(まぁ…………アイツの言う四天王様は、男の俺から見ても、すっげぇ男前なんだよなぁ……)
志絵が提示してきた条件を朧気に考えているうちに、いつしか白山通りに出ていた賢。
春日町交差点を渡り、通り沿いに聳え立つタワーマンションのエントランスに入っていった。
高層階専用のエレベーターに乗り、三十一階で降りた賢は自宅前のドアに立つと、インターフォンの下に付いている黒いセンサーに右手の人差し指を触れ、解錠させる。
人感センサーで廊下に柔らかな暖色系の照明が灯され、彼は突き当たりのリビングに通じるドアを開けた。
三十畳近くある広いリビングの奥には、ガラス戸一面に広がる大都会の壮麗な夜景。
煌びやかな景色が気に入って、彼は、東京での暮らしをこのマンションに決めた。
右手のドアはベッドルーム、左側はダイニングキッチンに繋がっている。
中央には、海外ブランドのL字型ソファーとローテーブルのセット、その向かいには、大きな画面の液晶テレビとオーディオラックが設置されていた。
水回りと二つの部屋は廊下側にあり、うち一つの部屋は、トレーニングルームとして使っている。
独身が3LDKのマンションに住むのは広過ぎるかもしれないが、高層階から望む眺望は、賢にとって癒しでもあった。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、賢はガラス戸の前に立つと、プルタブを開け喉を潤す。
「アイツに……『恋人のフリをしてくれ』なんて言ったの……失敗だったよな……」
街全体に宝石が零れたような景色に、数年振りに再会した高校一年のクラスメイト、坂口志絵の面差しを重ねる。
高校時代は、声がよく通る女子でいつも元気、外見もそんなに悪くない。
ボーイッシュな雰囲気と、リーダーシップを持っていると思わせる志絵に、賢は『総長』とあだ名を付けた。
放課後の教室で、サックスの練習を黙々としている彼女の姿が、今も印象に残っている。
そんな志絵に心が揺らいだのは、三年生の時、夏の甲子園予選決勝戦だった。
***
コメント
1件
え〜、賢の部屋の描写からビール片手に夜景を見ながらの独白、めちゃくちゃ雰囲気出てた!「恋人のフリしてくれって言ったの失敗だった」って後悔してるところに、高校時代の志絵のサックス練習のシーンが重なる流れが切ない。四天王の紹介も濃くて野球好きにはたまらん情報量だったわ。次の展開、気になる!