テラーノベル
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次の週の水曜日、葉月が玄関の掃除をしていると、隣のアパートから莉々子が顔を出した。
「葉月ちゃん、おはよう! 今日はお休み?」
「あ、莉々子さんおはようございます。はい、今日は休みです」
「何か予定はあるの?」
「特には……スーパーに行くくらいかなぁ?」
「じゃあ、久しぶりに外でランチでもしない?」
「いいですねぇ。 私もちょうど気分転換したいなーって思ってたから」
「じゃあ決まりね! 混まないうちに行きたいから、11時でいい?」
「もちろん」
「じゃあ11時に。うちが車出すよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、あとでね!」
「はーい!」
11時に葉月が家を出ると、ちょうど莉々子が車を出しているところだった。
莉々子の車は、ヴィンティージ感漂う国産のステーションワゴンだ。
オフホワイトの車体には、ウッディなラインが施され、どこか懐かしい雰囲気が漂っている。
このレトロな車は、莉々子の夫の雅也のお気に入りらしい。
葉月が助手席に乗ると、車は海沿いのレストランへ向かって走り始めた。
葉山方面へ20分ほど走ると、秋谷海岸が見渡せるイタリアンレストランへ到着した。
店内はまだ空いていて、二人はこの店の特等席であるテラス席へ案内された。
「今日は空いてるねー」
「本当! 夏休みシーズンはいつも行列でしょう?」
「そうそう。あー、テラス席気持ちいいー!」
莉々子は両手を頭の上に上げ、気持ち良さそうに大きく伸びをした。
二人の席からは、広い空と青い海、そして砂浜が一望できる。
太陽の日差しを受けた海は、波に揺れてキラキラと眩しく輝いていた。
メニューを見てから、葉月は渡り蟹のトマトクリームパスタを、そして莉々子は和風きのこのパスタを頼んだ。
どちらもランチメニューなので、これにサラダとデザートとコーヒーがつく。
「あれ? 莉々子さんが和風系のパスタなんて珍しい! クリーム系が好きだったよね?」
「それがさぁ、最近クリーム系を食べると気持ち悪くてさぁ……」
「え? まさか胃炎とか?」
「ううん、実はね……つわりみたいなの」
莉々子の言葉を聞いて、葉月は思わず大声を上げた。
「そ、それって、妊娠!?」
「そう。先週産婦人科に行ってきたの。間違いないって!」
「本当に? うわぁ、おめでとうございます! とうとう莉々子さんがママに! なんか泣けてきちゃいます……」
言葉通り、葉月の瞳は潤んでいた。
「フフッ、葉月ちゃん、ありがとう。でもね、不妊治療をやめた途端に授かるんだもん。びっくりよー」
「でも、治療をやめたら妊娠したっていう話は結構聞くよ。もしかしたら、ストレスがなくなるからいいのかもね」
「そうなのかなぁ? でも、雅也とは子供のいない将来を描き始めていたから、本当に驚いたわ」
「雅也さん、喜んだでしょう?」
「うん、そりゃあもう、大変よ! この前の休みなんて、急に赤ちゃん用品を買いに行こうなんて言い出すんだもん。まだ早いって却下したけどね」
「フフッ、やっぱり。雅也さん、子供好きだからなー」
「あ、あと、今乗ってるお気に入りの車も買い替えるかだって! 笑っちゃうよね!」
「あの車は一生手放さないって言ってたのに? うわぁ、子供ができると変わるんだねー」
「フフッ、そうみたい」
「でも本当に良かったぁ。今が一番大事な時期だから、身体無理しないようにね」
「ありがとう。仕事も、勤務日数を少し減らして内勤オンリーにしてもらったから大丈夫よ。たださ、空腹になると気持ち悪くなるんだよね。これってどうにかならないの?」
「つわりだから、仕方ないよ」
「葉月ちゃんの時もそうだった?」
「私は、コーヒーが飲めなくなったかなぁ」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「まあ、気分転換のランチだったらいつでもおつき合いしますから」
「ありがとう! こんな店でのランチなら、つわりのことも忘れられるし、これからもお付き合いよろしくねー」
その時サラダが運ばれて来たので、二人は食べ始めた。
「で、葉月ちゃんの方はどうなの? その後、桐生さんとは?」
莉々子にズバリ聞かれた葉月は、ドキッとした。
「どうって……」
「進展は?」
その瞬間、葉月の頭に賢太郎とのキスシーンが蘇り、動揺してしまう。
「え? あ、そういえば先日、撮影に行った時のお土産を、持って来てくれたわ」
「へぇ。家に来たんだ! で? どんな感じだったの?」
莉々子は期待を込めた表情で尋ねた。
「その時はちょうどうちに友達が来ていたので、三人でお喋りしただけ」
「ふーん、そっか。あ、でも、お友達に紹介できたんだね」
「うん」
そこで葉月は、あの日二人の男性からナンパされたことを莉々子に話した。
「へぇー、クリス・ハプラー似のイケオジかぁ。それとサーファー風の男? やるじゃん! 急にモテ期が来たね」
「これってモテ期なの?」
「もちろん、そうよ」
「30代後半になって、モテ期なんてあるの?」
「歳なんて関係ないわ。私の知り合いなんて、50代になってから来たって言ってたよ」
「50代で?」
「そう。どんな女性でもね、生きているうちに一回は『モテ期』って来るらしいわよ」
「へぇー。ちなみに、莉々子さんのモテ期は?」
「そうねぇ、私の場合は雅也と結婚する前かな?」
「じゃあ雅也さん、やきもきしたんじゃない?」
「そうなの。だから慌ててプロポーズしてきたんだよ」
莉々子はクスクスと笑いながら、続けた。
「その時、私は雅也と付き合っていたでしょう? それなのに他の男性からも急に声がかかり始めてさぁ。でも、それって、結局は雅也のお陰なのよね。雅也に愛されることによって自信に溢れていたんだと思う。だから他の男たちが寄ってきたんだと思うよ」
「愛されることによって自信に溢れる?」
「そう。例えば不倫とか相手に振り回されるような恋愛じゃなくてさ、ちゃんと大事にされて愛されている実感がある恋愛っていうのかな? そういう恋愛は、女性を魅力的に変えるのよ。だから、葉月ちゃんにモテ期が来たのも、きっと桐生さんのおかげなんじゃない?」
「桐生さんの?」
「そう。年下のイケメンに愛されることで、葉月ちゃんが自信を持って輝いているってことなんだよ」
「…………」
その時、パスタが運ばれてきたので、二人は話を一旦中断した。
そして、美味しいパスタを味わいながら、葉月は心の中で思った。
(愛されることで自信を持って輝いているの? この私が?)
葉月は莉々子の言葉を噛みしめつつ、窓の外に広がっているキラキラと輝く青い海をじっと見つめた。
コメント
23件
莉々子さん妊娠おめでとうございます💕 葉月ちゃんったら賢サマと付き合って内側から愛が漲り輝いてるのね«٩(*´꒳`*)۶»モテ期はいいけど‥賢サマは心配になっちゃうね😂
そうです、そうです!愛されていると内側からさらに綺麗になりますよ〜✨ きっと輝いているんでしょうね☺️ 莉々子さん、おめでとうございます🎉 これから楽しみですね〜
啓介と結婚する前にモテ期は無かったのかな…愛され不足だった? でも航ちゃんは授かった訳で、そう思うと複雑だなぁ。 つわり中の莉々子さん、しんどいだろうけどあと数ヶ月の辛抱です! やっと授かった尊い命、元気な赤ちゃん生んでくださいね👶✨️ 甘さ蓄積中の為、本日出番が無かった賢さま〜。 疲れた身体には甘さ補給が必要なのです♡ 明日は出て来い๛ก(ー̀ωー́ก)念