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その夜、真白は浅い眠りの中を漂っていた。

時計の針の音も、窓を叩く風の音も、遠くに霞んでいく。

瞼の裏に広がったのは、見覚えのある光――霧に包まれた白い庭。


柔らかな花びらが空気に溶け、光が粒になって漂っている。

足元には、水面のように透きとおる石畳。

風が吹くたび、どこかで誰かの笑い声がした。


「……ここは……」


声に出した瞬間、真白は理解した。


――夢の中だ。いつもの、あの場所。


けれど、今夜は何かが違っていた。

誰かの気配がすぐそばにある。

振り返ると、そこに立っていたのはアレクシスだった。


金の髪が風に揺れ、微笑が浮かぶ。

現実と同じ姿なのに、どこか違う。

その背に、淡く金色の羽のような光が揺れていた。


「やっぱり……ここで、君に会えると思ってた」


アレクシスの声は、遠くの鐘の音のように響いた。


真白は言葉を失ったまま、彼を見つめた。

夢の中で会うことが、どうしてこんなにも“自然”なのだろう。

まるで、ずっと前から何度も繰り返してきた儀式のように。


「……この場所、知ってるの?」


「うん。俺の世界では、“約束の庭”って呼ばれてた」


「約束……」


アレクシスは頷く。


「ここで、君と約束したんだ。“また会おう”って」


真白の胸の奥が疼いた。

その言葉を、確かに聞いた気がした。

過去のどこかで、誰かが、同じ言葉を囁いた記憶が蘇る。


「でも、どうして僕がその夢を……?」


「君の魂が覚えてるんだよ」


アレクシスの瞳がやさしく光る。


「俺たちは、いくつもの世界を越えても、同じ約束を繰り返してる。

“また会おう”って言葉だけを手がかりに」


風が吹く。花びらが二人の間を舞い、白い霧が淡く揺れる。

真白はその光景に息を呑んだ。

美しくて、どこか痛い――懐かしさに似た感情が胸に広がる。


「……君は、本当に僕を知っているの?」


「知ってるよ。君の笑い方も、泣くときの顔も」


アレクシスは静かに手を伸ばした。

指先が真白の頬をなぞる。

触れた瞬間、光が弾けた。


目の前の景色が一瞬にして変わる。


暗い夜、炎の匂い。

剣を交える音。

血の匂いと、風の冷たさ。

――そして、自分を庇って倒れる金髪の青年。


「アレク……!」


真白が叫んだとき、視界が崩れた。


次の瞬間、彼はベッドの上で息を呑んでいた。

胸が痛い。まるで心臓に直接触れられたような痛み。

夢なのに、感覚があまりにも鮮明だった。


隣の部屋から物音がして、真白は顔を上げた。

アレクシスが、同じように荒い呼吸をして目を覚ましている。

額には汗がにじみ、青い瞳が揺れていた。


「君も……見たの?」


「……うん。君が俺を、呼んでた」


互いに視線を交わす。

言葉にしなくても、わかってしまう。

二人が“同じ夢”を見たのだと。


夜明け前の静寂の中、雨上がりの光が窓の外に滲む。

世界の境界が溶けるように、二人の呼吸が重なった。


「ねえ、真白」


「なに?」


「君の世界に来て、ようやく……少し、帰れた気がする」


その言葉に、真白は何も返せなかった。

胸の奥で、痛みと安堵が混ざったような鼓動が鳴っていた。


夢と現実のあいだで、

失われた記憶のかけらが、ゆっくりと形を取り始めていた。


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