テラーノベル
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教室へ入ると、笑い声は途切れなかった。
誰かがわざと聞こえるように言う。
「またセットで帰ってくれば?」
「世話係も大変だな」
くすくす、と笑いが広がる。
遥は何も返さず、自分の席へ向かった。
関われば長くなる。
そう分かっていた。
椅子を引こうとした、その時だった。
机が少し前へ滑る。
体勢が崩れ、遥は咄嗟に机へ手をついた。
「危な」
「ちゃんと立てよ」
悪びれる様子もない声。
誰がやったのか見なくても分かる。
周囲は笑っているだけだった。
遥は机を元の位置へ戻し、そのまま座る。
何も言わない。
それが一番早く終わる方法だからだ。
だが、終わらなかった。
後ろから消しゴムが飛んできて机に当たる。
続いて丸めたプリント。
「拾えよ」
「自分で落としたんじゃね?」
また笑い声が上がる。
遥はゆっくりと床のプリントを拾い、机の上へ置いた。
その様子を見ていた教師が教室へ入ってくる。
「席につけ」
一言だけだった。
床に落ちた紙のことも、教室の空気も、何も聞かない。
授業はそのまま始まった。
遥にとっては、それもいつものことだった。
窓の外へ視線を向ける。
黒板の文字をノートへ写す。
教師の声は聞こえている。
それでも頭には入ってこない。
休み時間になると、教室はまた騒がしくなった。
遥は席を立たず、ノートを閉じる。
「遥」
静かな声がした。
振り向くと、教室の後ろの扉のそばに日下部が立っていた。
目が合う。
遥はすぐに逸らした。
周囲の視線が集まるのが分かったからだ。
日下部もその空気を感じ取ったらしく、教室へ入ってくるのをやめた。
代わりに短く言う。
「あとで少し話せるか」
遥は答えない。
答えられない。
教室の中では、返事をするだけでも誰かの話の種になる。
その沈黙を見て、日下部は無理に言葉を重ねなかった。
「分かった」
それだけ残し、廊下を歩いていく。
遥はその背中を見送ることもできず、机の木目を見つめたまま拳を握る。
――話したいわけじゃない。
――話したくないわけでもない。
その二つが自分の中でぶつかるたび、胸の奥だけが静かに痛んだ。
ゆぴ
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スミレ
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コメント
1件
第20話読み終えたよ…。教室の空気が重くて、読んでるだけで胸が苦しくなった。机をずらされたり消しゴム飛ばされたりするシーン、描写がリアルで「またか…」ってなったわ。日下部が「あとで少し話せるか」って来たときの遥の葛藤、「話したいわけじゃない。話したくないわけでもない」って矛盾がすごく刺さる。二人の距離感、どう動くんだろう。次が気になる🔥